第248話 綾奈の心の財産

 本気でツッコミを入れてしまい、声を張ったおかげでまた腰が痛くなった。

 一哉が何を言おうとしたかを理解した綾奈が、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 俺は仕方なく、昨日腰を痛めた経緯をみんなに説明した。

「ってことがあったんだよ。だからお前が想像しているような展開はないよ」

「なるほどな。で? 本当に大丈夫なのかよ?」

 お、さっきまでイジってきた一哉が心配してくれている。なんだかんだ言ってもやっぱり親友なんだよな。こいつは。

「まぁ、軽度だから大丈夫だ」

「でも、真人凄いよね。咄嗟の判断で西蓮寺さんを守ったんだから」

「うん。私もびっくりした。あの泣き虫だった真人がしっかりと綾奈ちゃんを守っているんだから」

「茜!? 突然何言ってんだよ!?」

 茜とは一番古い付き合いだから、お互いの幼稚園児のエピソードなんかも知っている。

 そして、そんな幼なじみはニヤニヤした笑みを浮かべている。十中八九、良いエピソードは言わないだろう。

「真人は小さい頃、いつも私と、真人のいとこの背中を追いかけてたよね~。「ふたりとも待ってよー」って」

「ちょっ、おい、やめろって!」

 茜とそのいとこの姉の背中を追いかけていたのは、かすかにだけど記憶に残っている。だからこそ恥ずかしいエピソードだ。

「小さい頃の真人は本当に泣き虫でね。ちょっとしたことでもベソかいてたなぁ」

「真人の小さい頃……」

 綾奈が茜の話を聞いて目をキラキラさせている。

「あ、茜さん!」

「どうしたの綾奈ちゃん?」

「その頃の真人の写真って残ってないかな!?」

 何を聞いてるんですか綾奈さん!

「真人の小さい頃の写真を見たいって言っても、真人は頑なに見せてくれないから、幼なじみの茜さんなら真人の写真も持ってるかなって思ったんだけど……」

 それほどまでに見たいのか!? いや、俺も綾奈の幼少期の写真は確かに見たい。以前綾奈の部屋にいった時も、古いアルバムは無いかなって目で探したりもした。

「あ、綾奈? 俺の小さい頃の写真を見ても面白くないって」

 笑っている写真より泣いている写真の方が多いんじゃないかってくらい、当時の俺はマジで泣き虫だったから、そんな写真を見られるのはやっぱり恥ずかしい。

「面白いとかじゃなくて、私は幼少期の旦那様を知りたいの。私の知らない真人を知れるのは、私にとって何よりも代え難い心の財産になるから」

「っ!」

 そんなの、一銭の得にもならないって言いたいのに、綾奈のワクワクしたような目を見たら言えなくなる。

「ん~、どうかな? 家に帰ったらちょっと探してみるよ」

「お願いします」

「あまり恥ずかしい写真はみせないでくれよ」

「善処するね」

 いや、頼むよマジで。

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