第246話 神社に到着
「ある程度予想していたけど、……すごい人の数だな」
俺たち六人は神社入り口の鳥居のそばまでやって来て、同じく初詣に来ている人の数を目の当たりにして、俺の口から思わずそんな言葉が漏れてしまった。
家族連れ、カップル、友達同士等、本当に多い。この辺りにこんなに人がいたんだって思うくらい多い。
「真人。腰の具合はどう?」
俺と手を繋いでいる綾奈が心配そうに言った。
まぁ、正直言えばちょっとだけキツかった。でも……。
「大丈夫だよ。ありがとう綾奈」
綾奈を心配させない為にも俺は嘘をついた。まだ神社に到着したばかりだ。こんなところでへばってなんかいられない。
「うん。でも、痛かったら遠慮なく言ってね? 真人の身体が何より大事だから」
「っ! あ、あぁ、わかったよ」
突然の不意打ちに思わず顔が熱くなる。
というか、ご両親や姉夫婦がいる中で言うもんだから、四人とも微笑ましい表情で俺たちを見ている。
「真人君。僕もいるから辛かったら言ってね」
「そうよ真人。私たちは家族なんだから、私も翔太さんも真人を支えるから、遠慮しなくていいのよ」
「ありがとうございます。翔太さん、麻里姉ぇ」
二人も本当に温かい言葉をかけてくれる。
「お姉ちゃん、お義兄さん。私が真人を支えるから」
綾奈は俺の腕に抱きついてきた。
二人の厚意を突っぱねてはいないけど、俺を支える役目は姉夫婦にも譲りたくないみたいだ。
「はいはい。綾奈が支えれなくなったら私たちも手を貸すわよ」
「うん。その時は無理せず言ってね綾奈ちゃん」
「はーい」
「三人とも、本当にありがとう」
俺は本当に、この人達から大切に思われているんだな。感動でちょっと泣きそうだ。
さすがにこんな大勢の人がいる中で涙は流せないので、俺は改めて初詣に来た参拝客を見る。すると、その中の十代から四十代くらいの男女とよく目が合う。というより、その人たちが俺たちを見ている。
そして喧騒の中で聞こえてくるのは、「綺麗」や「イケメン」等の言葉だった。
そうだよ。すっかり忘れていたけど、西蓮寺家の皆さんと翔太さんは美男美女揃いだ。
しかも、そこら辺のアイドルでは相手にならないほどの整った容姿を持っているから、その人たちが一堂に会せば自然と視線を集めてしまうのは当然ではないか。
ここで、ふと俺と同年代か少し年上の女性二人組と目が合った。
その二人組は、俺を見て何やらヒソヒソと話をしている。
口を手で隠しているので何を喋っているかは全くわからないけど、態度からしてあまりいいことを言われていないのは想像に難しくなかった。
そりゃそうか。これだけ美男美女が揃っている中、痩せたとはいえフツメンの俺が混じっているのが理解出来ないんだろう。
他の人たちを見ると、さっきの二人組同様、俺を見ながら何かを話している人達が何組かいた。被害妄想かもしれないが、やっぱりいいことを言われていない気がする。
最近はこの人達の中に溶け込みすぎていたから失念していたけど、やっぱり周りから見たら……。
「真人、どうしたの?」
俺を見た綾奈が声をかけてきた。その顔はとても心配そうだ。
「え?」
「暗い顔してたから……。やっぱり腰が痛む?」
そう言って綾奈は俺の腰を優しくさすってくれる。
「ありがとう。でも、そうじゃないんだ」
「え?」
「いや、俺って周りからどう見られてるのか気になって」
「どうって?」
綾奈はこてんと首を傾げながら聞き返してきた。
「これだけ美男美女が揃っている中に俺が混じっているのって、やっぱり他の人たちから見たら不思議に思われたり、もっと言ったら……異物みたいに見られてるんじゃないかと思ってね」
自分で言ってて悲しくなる。
ネガティブな想像はしないよう心がけて、風見高校の文化祭でも改めてそう決めたのに、いざこれだけ周囲の目に晒されると、途端に不安になってしまう。
「そんなことない!!」
綾奈が大声を出したことで、俺の思考はストップし、俺は綾奈の方を向いた。
「綾奈……」
「真人は、真人は凄くかっこいいし、私の大切な旦那様だもん! 他の人がどう言おうと私には、私達には関係ないの! 真人を知らないくせに悪く言う人がいるなら、私はその人を絶対に許さない」
「綾奈……」
「そうね。周りがどう言ったとしても、真人にも、私達にも関係ないわ。まぁ、私は教師だけど、大切な家族を侮辱されて黙って見てられるほど人間が出来ているわけではないわ」
「麻里姉ぇ……」
「真人君は僕にとっても既に弟みたいなものだからね。もしも本当に真人君をディスっている奴がいるなら……誰の弟をディスってるのか、俺がわからせてやるよ」
「し、翔太さん!?」
気のせいか、翔太さんから殺気のようなものが放たれている気がする。
以前、ゲーセンで千佳さんが中村を睨みつけた時以上の迫力を感じる。
眼鏡を外し、一人称も「僕」から「俺」に変わったことも相まっている。
「翔太さんストップ。翔太さんがやるとシャレにならないから」
「……そうだね。ごめんね麻里奈」
麻里姉ぇが、まるでなんでもないことのように翔太さんを止めた。付き合っている時からこの状態になった翔太さんをよく見ていたのだろうか?
松木夫妻を見ていると、急に明奈さんが俺に抱きついてきた。
「ちょっ、明奈さん!?」
「お母さん!?」
「真人君を悪く言うなんて失礼しちゃうわ。真人君はこーんなに可愛いのに」
驚く俺と綾奈をよそに、明奈さんは俺を抱きしめたまま嬉しいやら恥ずかしいやらなセリフを言ってくる。
「あ、綾奈。明奈さんを止め───」
「やっぱりお母さんもわかる!? 真人ってかわいいよね!?」
「綾奈!?」
そこ同意しなくていいから! ここ外で人がいっぱい見てるから止めて!
「ひ、弘樹さん止め……いやサムズアップしなくていいですから!」
「真人君。こうなった母さんは止まらないから諦めてくれ」
「えぇ……」
弘樹さんから無慈悲にも告げられた。どうやら本当に止める術はないみたいだ。
その後も俺が可愛い談義に花が咲いた綾奈と明奈さん親子。明奈さんが俺を離したのは抱きついてから約三分後のことだった。
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