第241話 母は気付く
「それじゃあ綾奈。着付けるから服を脱いでちょうだい」
「わ、わかった……」
お母さんに言われたとおり、私は着用していた衣服を脱いで下着姿になった。ちなみに色は水色で、レースが入った下着だ。
ペンダントの金属部分が肌に直に触れているからヒンヤリしている。こうならないためにインナーとキャミソールの間に入れてたんだけど、冷たさが伝わり背中がゾクゾクする。
「うんうん。相変わらずいいスタイルね。……あら?」
「ど、どうしたのお母さん」
お母さんが私の身体を見て何か気になることがあるみたい。寒いし恥ずかしいから早くしてほしい。
私が少し困り顔をしていても、お母さんは気にすることなく私の身体のある一点、胸をじっと見ていた。
「綾奈、少し大きくなった?」
「ふぇ?」
な、なんで!? 確かにサイズアップしたけど、どうしてお母さんはすぐにわかったの?
「どうして私のサイズを知ってるの!?」
「そりゃあ、愛する娘ですから」
「えぇ……」
お母さんに愛されてるとわかって嬉しいけど、それでわかるものなの? 理由になってない気がするんだけど。
私のリアクションをよそに、着付けが始まった。
「それよりどう? 向こうでの生活は」
「う、うん。すごく楽しいよ。真人はもちろん、ご両親も美奈ちゃんもすごく優しくしてくれるから」
最初はやっぱり緊張していたけど、今はもうそんなことはなくとてもリラックスして過ごしている。
何より愛する旦那様がすぐ近くにいる生活がたまらなく幸せ。
「そう。それは良かったわ」
お母さんが優しい口調で言った。
「ほとんど心配はしてなかったけど、あなたがもし、良子さん達とうまく打ち解けずにいるのではないかとか、向こうのご家族に迷惑をかけてるんじゃないかって思わなかったわけではないから安心したわ」
「良子さんとも雄一さんとも仲良く出来てると思う。迷惑は…………かけてないはず」
昨日のお風呂の件ではお二人を少し困らせてしまったけど、それ以外は概ね大丈夫なはずだよね。
「それでね、昨日新しいお友達が出来たの」
それから、私は昨日お友達になった北内香織ちゃんのことを話した。真人のクラスメイトであること、昨日商店街で偶然会ってお話したこと、それから……友達になったいきさつも。
「そう。……その子は真人君が好きだったのね」
「うん。でも、香織ちゃんは真人のこと、もう友達としか思ってないって言ってたから」
好きだったらあんな辛辣な言葉を使わないだろうし……。私は昨日のやり取りを思い出して苦笑した。
「それにしても、やっぱり真人君はモテるのね」
「やっぱりお母さんも真人はモテるって思ってたの?」
「ええ。優しくて、まっすぐで誠実な真人君がモテないなんておかしいもの」
お母さんも真人の魅力を理解してくれている。そのことに嬉しくなり、私の頬は自然と緩んだ。
「そんな男の子が私の娘を結婚相手に選んでくれたんだもの。親としては安心だわ。綾奈、真人君に嫌われないようにね」
「うん。真人のそばを離れたくないから、真人が嫌がることはしないよ」
真人なら多少嫌がることをしても嫌わないのはわかってる。でも、真人に愛されていること……それが当たり前って思ってないし、私は真人の嫌な顔は見たくないから彼が本気で嫌がることは絶対にしない。
私が一番怖いのは、真人に嫌われることだから。
それからもお母さんと話しながら着付けをしてもらい、気づけば半分くらい終わっていた。
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