第237話 二人で新年を迎える
……綾奈とキスを始めてからどれだけの時間が経ったのだろう。
体感的には十分、いや、それよりも長い時間かもしれない。
ゴーン!
そんなことを考えながら綾奈とキスをしていると、突然遠くから鐘の音が聞こえてきた。おそらく除夜の鐘だ。
その除夜の鐘に反応して、俺たちは唇を離した。
お互い夢中で唇を貪っていたので、離した瞬間「はぁ……はぁ……」と荒い呼吸をした。
「わ、もうこんな時間なんだね」
呼吸を整えた綾奈は、近くに置いてあったスマホを手に取り、時刻を確認した。
「ちぃちゃんからメッセージ来てたから、返信するね」
そう言って綾奈はスマホを操作しだした。
除夜の鐘が鳴り始めたから、もうすぐ今年が終わってしまう。
思えば、八月からいろいろあったなぁ。
小学校、中学校の義務教育の九年間の間、何度か同じクラスになったりはしたけど特にこれといって会話したことなかったのに、合唱コンクールの会場で綾奈と再会して、そこで初めてまともに喋ったんだよな。
それからまだ五ヶ月も経ってないのに、交際して、結婚の約束もして、今はこうして俺の家にお泊まりをしている。
本当に、この五ヶ月近くの日々は目まぐるしいものだった。綾奈のおかげで、俺の陰キャオタクの生活が劇的に変わり、毎日がさらに楽しくなった。
「ふんっ!……うぎぎ……」
俺は気合を入れて、うつ伏せの状態から身体を横にした。覚悟はしていたけどやっぱり腰が痛い。
「ま、真人!? 大丈夫なの?」
突然体勢を変えた俺を心配した綾奈は、千佳さんとメッセージのやり取りをしていたスマホを床に置いて、すぐさま俺を心配してくる。
「大丈夫……まぁ平気だよ。それより千佳さんとのメッセージはいいの?」
「うん。ちょうど終わったから大丈夫だよ。……腰、痛くない?」
「正直痛い。でも数日はこいつとうまく付き合っていかなければならないしね。痛まないようにじっとしてたら身体が固まってしまうし、トイレにも行けないからね」
俺は綾奈を心配させないために、ニカッと笑いながら言った。
「お手洗いは行かなくて平気?」
「まだ大丈夫だよ。寝る前には行こうと思ってるけど」
「私がお手洗いまで付き添うよ」
「腰の痛みがヤバかったらお願いするかも。それより綾奈」
綾奈にあまり迷惑はかけたくないが、ストレートに断ってしまうと綾奈は落ち込んでしまうので、俺は腰の痛みが酷かったらという条件付きで綾奈にサポートをお願いした。
それから俺は、綾奈を呼んで、掛け布団を半分ほどめくった。
暖房がついているけど、やはり冷たい空気が流れてきた。
「え?」
突然の俺の行動に、綾奈は驚きの声を上げるが、俺は気にせずにベッドをぽんぽんと軽く叩く。
「い、いいの?」
それを見た綾奈は、目を見開いた。
「もちろん」
その言葉に綾奈は立ち上がりベッドに横になろうとする。
俺は綾奈がベッドに入る直前に、枕を百八十度回転させた。だって、綾奈が頭をつけようとしている箇所は、さっきまでキスをしていて、俺の唾液がついているかもしれなかったから。綾奈の綺麗な髪、そして頬をそんな物で汚すことは出来ない。
「? お、お邪魔します」
俺の行動がなんの意味を持っているのか理解していない綾奈は、一度首を傾げながらベッドに入ってきた。今回は俺の腕枕ではなく、リアルな枕に頭をつけた。
「綾奈。今年一年、本当にありがとうね」
俺は、今年一年の感謝を伝えながら、綾奈の頬に優しく手を置いた。
付き合ってくれたことや、俺が体調を崩した時の看病など、綾奈には世話になりっぱなしだったな。
「私こそ。真人、本当にありがとう」
綾奈は自分の頬に触れている俺の手に自分の手をそっと乗せ、慈愛に満ちた微笑みで俺にお礼を言ってきた。
「真人と再会して、二学期から一緒に下校するようになってから、毎日が本当に楽しかった。だから……」
綾奈が続けて何かを言おうとした瞬間、俺と綾奈のスマホに同時にメッセージが届いた。
俺は枕元に、そして綾奈は一度ベッドから出て、ローテーブルに置いてあったスマホを取り、再びベッドに戻る。
綾奈がベッドに戻ってきてから、俺たちは同時にメッセージを確認する。
すると、俺たち六人のグループチャットに、茜からメッセージが入っていた。
【あけましておめでとう!みんな、今年もよろしくね】
そのメッセージを見たあとに、スマホで時刻を確認すると、午前零時を過ぎていて年が変わっていた。
それから一哉、千佳さん、健太郎からも、あけおめのメッセージが送られてきた。
「綾奈」
「真人」
俺たちは横になった状態で、お互いの目をまっすぐ見て名前を呼び合い、そして───
「「あけましておめでとう」」
同時に笑顔で新年の挨拶を交わした。
「今年もよろしくね。綾奈」
「こちらこそよろしくね。真人」
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