第234話 綾奈のマッサージ

「真人、良かったらマッサージしてもいいかな?」

「マッサージ?」

 我に返ったばかりの綾奈はそんな提案を口にした。

「うん。あんまり上手く出来ないと思うけど、少しでも早く良くなってほしいから……」

 綾奈の本気の思いが伝わってくる。自分のせいで、という罪悪感もやっぱりあるんだろうけど、この綾奈の言葉を遠慮すれば間違いなく綾奈は気を落としてしまう。だから俺の答えは決まっていた。

「じゃあ、お願いしようかな?綾奈がしてくれたら早く良くなるだろうし」

「あ、ありがとう真人。私、頑張るね!」

 俺の返事を聞いて、綾奈の表情がぱあっと明るくなる。やはり俺の選択は間違っていなかった。

 それから綾奈はフンスと気合を入れ、ゆっくりと俺の掛け布団をはがしていった。


「じ、じゃあ、やっていくね」

「お、お願いします」

 綾奈の施術開始の言葉に、俺も応える。

 俺は相変わらずうつ伏せの状態で、両手は顎の下に置いている。

 一方の綾奈は、俺の大腿部に跨った状態で座っている。

「あの、真人?」

「うん?」

「お、重かったら、遠慮なく言ってね」

 綾奈、そんなことを気にしているのか。まぁ、無理はないか。

 こんな風に人に跨ったことなんて、大きくなり、物の判別がつくようになってからしたことがないのだろうな。もしあったとしても、ご両親や麻里姉ぇに限ってもらわないと俺が色々嫉妬してしまう。

 まぁ、綾奈の性格上絶対にないだろうし、仮にご家族にやったことがあるのなら、明奈さんと麻里姉ぇは困惑するだろうし、弘樹さんは……どうだろ?困った顔をしながら内心では家族のスキンシップで嬉しそうにしたりして……いや、ないな。

「綾奈は軽いよ。だから気にしないで」

 当然重いなんてことはなく、ほとんど座られている箇所に負担がこない重さだ。

 だが、綾奈のお尻や内股の感触が伝わってくるから落ち着かない。

 綾奈からは見えてないと思うが、俺の顔は今絶対に赤いはずだ。

「あ、ありがとう真人。じゃあ改めて……」

 そう言うと、綾奈は俺の背中に両の親指を当てた。

「痛かったら言ってね」

「わかった」

「んっ、しょ……」

 綾奈はゆっくりと、親指に自分の体重をかけた。

「ん、……くぅ~」

 綾奈が体重をかけるのと比例して、ゆっくりと俺の背中にも痛みが走る。

「だ、大丈夫!? 力強すぎたかな!?」

 俺の声に反応して、すぐに親指を背中から離した綾奈。嬉しいけど、過度に心配しすぎだよ。

「うん。大丈夫。アレだよ、痛気持ちいいってやつ。だから気にしないで続けてほしい」

 綾奈に悲しい顔をさせないために嘘を言ったわけではない。マジで痛さの中に気持ちよさもあった。

 もしかして綾奈、マッサージの才能がある?

「わ、わかった。じゃあ続けるね」

「疲れたらやめていいからね」

「はーい」

 それからも綾奈は、マッサージを続けてくれた。

 俺が本気で痛がらないように、優しく、そしてゆっくりと自分の体重を乗せるように。

 これが本当に気持ちよくて、マッサージが終わる頃には、気のせいかもしれないが痛みが少しだけやわらいだような気がした。

 綾奈は体重をかける時、「ん、しょ」や、「よいしょ」等の掛け声を毎回出すものだから、耳でも楽しめた。

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