第229話 美容師さんみたいなノリ

 俺が椅子に座ったのを伝えると、綾奈は目を開いた。

 それから綾奈はボディーソープ……ではなくシャンプーが入ったボトルを手に取った。

「綾奈?背中を洗うんじゃ……」

「そう思ったんだけど、髪を洗う時も腰に負担があると思って、だから髪も私が洗うよ」

 それだけ伝えると、綾奈は俺の返事を待たずにシャワーを手に取りヘッドからお湯を出した。

 熱さを自分の手で確認したあと、「お湯、かけるね」と言って、お湯で俺の頭を濡らし始めた。

「熱くない?」

「うん。ちょうどいいよ」

 シャワーの温度も本当に適温で気持ちいい。

 だが、真の心地良さはやっぱり綾奈の手だ。

 綾奈が優しい手つきで髪を梳いたり、かきあげたりして髪全体を濡らすようにしてくれている。

 ドライヤーで乾かしてもらうのとはまた違った感覚だ。

 シャワーを止め、後ろからシャンプーが入ったボトルを二、三度プッシュする音が聞こえる。その後、すぐ後ろでニュルニュルと音が聞こえてくる。多分シャンプーを手全体に広げているのだろう。

「じゃあ、シャンプーしていくね」

「お願いします」

 綾奈がことわりを入れてきたので俺も返事をする。

 綾奈が俺の髪に優しく触れ、そこから撫でるようにシャンプーを髪全体に行き渡らせる。

 シャンプーを広げ終えたら、今度はシャカシャカと髪を、そして頭皮を洗われる。決して爪は立てずに、優しい手つきで髪を洗われている。

「痒いところはございませんか?」

 綾奈はこの状況に慣れてきたのか、美容師さんみたいなノリで話しかけてくる。声音には緊張の色はほとんどなく、むしろ楽しんでいるように思える。

「だ、大丈夫だよ」

「強さはこれくらいでいい?」

「……もうちょい強くてもいいかな」

「ふふ、はーい♡」

 綾奈の声が弾んでいる。だんだんと楽しくなってきているのかもしれない。

 凄いなぁ。俺なんかまだ全然ドキドキしているのに。

 それからも綾奈は、丁寧に丁寧に髪を洗ってくれ、シャンプーをお湯で流し終えたら今度はコンディショナーも優しい手つきで髪全体に染み込ませるようにつけ、それも流してくれた。

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