第227話 真人のサポートをするために
「雄一さん、良子さん。真人の入浴のサポートをしてはダメでしょうか!?」
私は脱衣所を出たあと、リビングに戻り真人のご両親に言った。
お二人は私が何を言ったのか理解出来ずに口を開けてぽかんとしていた。
数秒の後、良子さんが口を開いた。
「えっと……それは真人と一緒に入るって意味で合っているかしら?」
「はい」
私はまっすぐ良子さんの目を見て肯定した。
「でも真人は普通にお風呂に入ってるから、あの子は今裸よ? 突然入ったらびっくりするでしょうし、綾奈ちゃんも恥ずかしいでしょ?」
確かに恥ずかしい。でも、今の私は恥ずかしさより真人のサポートをしたいという気持ちが強い。
真人は「誰も悪くない」って言ってくれたけど、真人があんな風になってしまう最初の原因を作ってしまったのは私なんだ。
私があの時、真人に甘えるのを我慢していれば、真人はあんな怪我を負うことはなかった。
だから、真人の怪我が治るまで、私が出来るだけそばにいて彼を支えたい。本人は大したことはないって言ってるけど、それでも真人のために私が出来ることはなんでもやりたい。
「手伝うにしても、綾奈ちゃんは何を着て入るの? 濡れてもいい服は持ってきているの? さすがに綾奈ちゃんも裸で入るのは許可出来ないわよ?」
良子さんの言葉もごもっともだ。私だって裸で真人がいるお風呂に入ることは、それこそ恥ずかしくて出来ない。
服も何着か持ってきたけど、お出掛け用の服を数着とパジャマ一着、それから部屋着は二着用意したけど一着はお洗濯に出していて、もう一着あるけど、それを着てお風呂に入ると濡れてしまうから明日着る部屋着がなくなってしまう。
部屋着を洗濯機にかければ済む話だけど、私の服だけで人様の家の洗濯機を使わせてもらうのは申し訳ないから、やっぱり部屋着では入れない。
でも、念の為持ってきたアレがあるから問題はない。
「えっと、その……じ、実は、水着を持ってきていまして……」
私が持ってきたのは水着だ。ここにお泊まりに来る前日のクリスマスにキャリーバッグに入れておいた。
ちなみにその水着は今年の夏休みに入ってすぐにちぃちゃんと一緒に買いに行ったものだ。
ビキニなんて恥ずかしくて着れないって言ったんだけど、ちぃちゃんが「それ着て中筋の前に立ったらアイツは見惚れて綾奈を好きになるから」って言われて買っちゃった。我ながらチョロいと思うよ。
でも、このビキニを着るまでもなく真人が私に惚れていたのは本当に嬉しかったな。
合唱コンクールが終わった後に実際に海に行ったんだけど、予想以上の海水浴客に圧倒されちゃった。
ナンパしてくる人もけっこういたけど、ちぃちゃんが睨みつけたらほとんどの人がすごすごと去って行った。それでも諦めない人が何人かいたけど、腕っぷしの強いちぃちゃん相手に歯が立たなくてその人たちも諦めて帰って行った。
その時のちぃちゃんの水着は、黒のビキニにパレオを着けていた。
身長が高くてスタイル抜群のちぃちゃんは、男の人だけでなく女の人の視線も集めていた。
「綾奈ちゃん。なんで水着なんて持ってきているの?」
やっぱりそこは気になっちゃうよね。お二人じゃなくても、彼氏の家にお泊まりしに来て水着持ってきてますなんて聞かされて気にならない人の方が少ないと思う。真冬だし。
私から頼み込んでるこの状況で、変に誤魔化すわけにもいかないから、私は恥ずかしながらも水着を持ってきた理由を正直に話すことにした。
「えっと……、も、もしかしたら真人と一緒にお風呂に入れる機会があるかもと思って……ね、念の為に持ってきてたんです」
これを人に、特に真人のご両親に打ち明けるのはとても恥ずかしい。顔がものすごく火照っている。リビングでは暖房もつけているからさらに熱く感じる。
ご両親や美奈ちゃんがいない日があったら、私が真人の背中を流そうと思って念の為に持ってきていたのだけど、まさかこんなところで役に立つとは思ってなかった。
ほ、本当に真人の背中を流してあげたかったし、その後湯船に浸かりながらゆっくりしたかったから持ってきただけであって、決してお風呂場でイチャイチャしたかったからじゃあ…………ちょっとはあるけど、でもでも、今はそれが本来の目的じゃないから。
「綾奈さん。顔がすごく赤いけど大丈夫?」
「へっ!? だ、大丈夫です」
雄一さんの言葉で、少し妄想の世界に入りかけていた私はなんとか現実に帰還できた。
「でもまさか、綾奈ちゃんがそんな大胆なことを考えていたのは驚いたわ。どうするお父さん?」
「うーん。……いいんじゃないか?真人はあんな状態だからサポートは必要だと思うし。仮に真人が変な気を起こしても今の真人は綾奈さんに何かをしようと思っても出来ないだろうし」
「じ、じゃあ……!」
「うん。綾奈さん。悪いけど真人の入浴の手伝いをお願いできるかな?」
「は、はい!ありがとうございます。任せてください!」
私はお二人の許可が下りたことにお礼を言った。
正直、許してくれないだろうと思っていたけど、許可してくれて本当に良かった。
雄一さんの「今の真人は」って言葉に少しだけ胸が締め付けられたけど、雄一さんは私を責めているわけじゃないし他意がないのは知ってるから、私はそれを顔には出さなかった。
「じゃあ、私は水着の準備をするので、これで失礼します」
「うん。真人のこと、頼んだよ」
「はい!」
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