第226話 浴室の扉が開かれる
綾奈の肩を借りて脱衣所までやってきた俺は、綾奈から腕を離した。
俺を見る綾奈はまだ心配の眼差しを向けているが、綾奈の前では流石に服は脱げない。
ちなみに美奈は持っていた俺の服やバスタオルを置くと、すぐに脱衣所から出て行った。
「綾奈。心配してくれるのは本当に嬉しいけど、これ以上は……」
「う、うん。でも、何かあったらすぐに言ってね?」
「うん。……じゃあ」
「へ!?」
俺は綾奈を正面から抱きしめ、俺の行動に綾奈は驚きの声を上げた。
「ま、真人!? う、嬉しいけど、どうして……」
「部屋にもどったら、もしかしたら綾奈をギュッと出来ないかもしれないから今のうちにしとこうと思ってね」
部屋に戻ると、俺は安静な体勢をとるためにベッドに入るだろう。綾奈が俺の部屋に来る前にお風呂に入るだろうし、それまで座って待つのはちょっとしんどい。
ベッドに横になると、体勢を変えるのも一苦労だろう。そんな状態だと綾奈を抱きしめることが出来ないかもしれないから、こうして立っている今のうちに抱きしめておこうと思ったのだ。
少しすると、綾奈も俺の腰に両腕を回し、腰を優しくさすってくれた。
「あんまり効かないかもだけど、早く治るおまじない」
綾奈の優しさに思わず胸が熱くなる。
「ありがとう。絶対に効果あるから早く治るよ」
俺はいつものように、綾奈の頭を優しく撫でると、綾奈は目を細めて微笑んでくれた。
そんな顔を見ていると、やっぱりキスをしたくなる。
すると、綾奈はまるで俺の考えがわかっているかのように目を閉じ、背伸びをしてキス待ちの体勢に入った。
「っ!」
俺はその行動と表情にドキリとし、綾奈とキスをするために自分の腰を曲げ───
「ん……!」
───ようとしたら腰に痛みが走ったけど、そこまで痛くなかったので、痛みをこらえて綾奈とキスをした。
綾奈とは少し身長差があるので、綾奈が背伸びをしても、俺が少し腰を曲げなければキスが出来ないのだ。
「ご、ごめんね真人……」
「ううん。俺もキスしたくて勝手に腰を曲げて勝手に痛がったから、綾奈が謝ることじゃないよ」
それからもう少しだけお互い抱きしめ合い、綾奈が脱衣場から出ていったあと、俺は服を脱ぎ、シャワーを浴びてから湯船に浸かった。
「あ~気持ちいい」
なんかおっさんみたいな声を出してしまったが、実際本当に気持ちよくて生き返る感じだ。
お湯はいつもより少し熱めに設定さているが、寒かったのでちょうどいい。
それに、この熱いお湯で少しでも血行を良くし、腰の痛みを早く治さないとな。
あれ? この場合って患部を温めて良いんだっけ? まぁいいや、寒いし。
綾奈と美奈に頼ると決めたけど、そう何日も頼りっぱなしじゃやっぱり申し訳ないもんな。俺も早く腰を治して、妹を、そして婚約者を支えたい。
それにしても、脱衣所を出る前の綾奈はなんか変だったな。
変というか、「よしっ!」って言って、何か気合を入れてるような、決意したような感じだったな。
多分、俺をサポートする何か妙案が閃いたのかもしれない。それは俺が部屋に戻った後にしてくれる何かだと思うが、ベッドに入ったら後は寝るだけなので、そこで何をするんだろう?
エッチなことじゃないのは間違いないとして、ベッドで横になっている俺の背中をさっきみたいにさすってくれるとかかな? それだと心地よく眠れそうだな。
なんて考えていると、いきなり浴室の扉が開いた。
「えっ!?」
突然のことに、俺はすぐさま扉の方を向くと、なんとそこから綾奈がひょっこり顔を出していた。
「あ、綾奈!? 何してるんだよ!」
俺は慌てて大事な所が見えないように、身体を洗うタオルを引っつかみ、見えては行けないところを隠す。腰が痛いが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「ま、真人の背中を流そうと思って……」
そう言って、少しだけ身を乗り出した綾奈だったが、その時少しだけだが肩も見えていた。だが、その肩には着用しているはずの服が見えず、綾奈の素肌が顕になっていた。え!? いやまさかな。
「だ、だからっていきなり浴室のドアを開けるのは……」
「開ける前に聞いたら、真人は絶対に開けるのを許してくれないと思ったから……だから、お邪魔します!!」
「ちょっ!?」
そう言って、意を決したように綾奈は浴室に入ってきた。
突然の綾奈の行動に目をつぶるのが間に合わず、俺は綾奈の姿を見てしまう。
綾奈は裸ではなかったが、バスタオルを身体に巻いているわけでもなかった。
綾奈は、純白の水着を着ていた。短いフリルスカート付きのビキニだ。
そして髪はさっきと同様に後ろで束ねている。
そのあまりの美しさに、俺はフリーズした。
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