第225話 献身的なサポートをする婚約者と妹

 その後、綾奈と美奈に心配されながらも何とか起き上がった俺は、なるべく腰に負担をかけないように、ゆっくりと階段を降りてリビングに入った。

 お腹に力を入れると腰が痛くなるが少しだけだ。でもやっぱり痛むのは痛むので、ゆっくりと起き上がった。

 当然ながら、リビングにいた父さんと母さんには、なかなか降りてこなかったのと、さっきの大きな音について、そして俺の現状について追求された。

 隠していても仕方ないので、俺は綾奈と美奈にアイコンタクトで伝えていいか問うと、二人は頷いてくれたので、俺は二階で起こったことについて話した。誰も悪くないから二人を責めないでほしいことを加えて。

 俺の話を聞いた両親は、嘆息しながらも理解を示してくれて、綾奈と美奈にはお咎めがなかったのでほっと胸を撫で下ろした。

 その後は少し冷めてしまった年越しそばをいただいた。

 綾奈が作ってくれた年越しそばは、やっぱりすごく美味しいし、ちょっと冷めたといっても、猫舌の俺にはちょうどいいくらいの熱さだったので全然問題ない。

 俺がそれを伝えると、綾奈は照れながらも笑顔を向けてくれた。俺は綾奈の頭を優しく撫でた。

 綾奈が俺に微笑みかけてくれたら俺が綾奈の頭を撫でる。最早条件反射の域まできている気がした。

 いつもツッコミを入れてきそうな美奈は、それを見ても何も言わなかったので、やはりさっきの一件でまだ責任を感じているのではないかと思い、少し胸が痛んだ。

 これを美奈に聞くと、美奈は絶対にまた悲しい表情になる。いや、美奈だけでなく綾奈もそうなると思った俺は何も言わなかった。


「真人、先にお風呂に入っちゃいなさい」

 その後、年越しそばを食べた俺は、母さんから先に風呂に入るよう言われた。

 確かに一度部屋に戻ってまた時間が経ってから風呂に入るより、今から入って部屋に行った方が腰の負担も減るから、母さんの言葉に従うことにした。

「わかった。……ん、しょっと!」

 軽度とはいえ、やっぱり痛いのは嫌なので、両の手のひらをテーブルにつけて、そこからゆっくりと立ち上がる。大袈裟かもしれないが、少しでも負担を減らして早く治すためだ。

 その様子を綾奈と美奈は心配しながら見ていた。

「あ、でもスウェットとパンツ持ってきてないや」

「それなら俺が取ってくるよ」

 俺が寝巻きとパンツが部屋にあると言うと、父さんが俺の部屋に行き、スウェットと適当なパンツを取ってきてくれた。

「ありがとう父さん」

 俺はスウェットとパンツ、それからバスタオルを持って脱衣所に行こうとした。

「真人。私の肩貸すから、無理しないで」

「お兄ちゃん。私がそれ持つから貸して」

 その直後、俺の歩き方が危なっかしいのか、綾奈と美奈はそれぞれ俺の両隣に移動して、綾奈が俺の腕を自分の肩を貸してくれて、美奈は俺が持っていた着替えやバスタオルを半ば無理やりにひったくって脱衣所まで持って行ってくれた。

「そこまで大したことはないんだけど……二人ともありがとうな」

「他に手伝ってほしいことがあったら何でも言ってね?」

「そうだよお兄ちゃん。私たちが全力でサポートするから遠慮しないで!」

 やっぱり二人ともまだ責任を感じているように見える。本当、気にしなくていいのにな。

 でも、二人の厚意は素直にありがたい。だから俺は、責任 云々うんぬんは口にせず、二人に感謝だけ伝えた。

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