第221話 綾奈のイチャつき強要疑惑

 北内さんと別れ、俺たちはアーケード内を歩いていた。

 あの後、綾奈と北内さんは連絡先を交換し、しばらく話していたんだけど、北内さんが「綾奈ちゃんかわいい~」と言って綾奈に抱きついていた。

 綾奈は突然のことに驚いていたが、すぐに受け入れ抱き締め返していた。

「中筋君、綾奈ちゃんもらっていい?」って聞かれた時は、冗談とわかっていたけど断固拒否した。

 同性の北内さんでも綾奈は絶対にあげない。綾奈の親友の千佳さんにも同じく。

 その直後の、「香織ちゃんごめんね。私は真人のものだから」と言うセリフに照れてニヤけてしまい、北内さんからまた辛辣な感想をいただいたのは地味にダメージになっている。

「真人、元気だして」

「……ありがとう綾奈」

 俺が地味にへこんでいるのを見兼ねて、綾奈が温かい言葉と共に、背中をぽんぽんと優しく叩いてくれた。おかげで俺の心は持ち直した。俺も大概チョロいな。

「ん? ……やぁ中筋君、西蓮寺さん。こんにちは」

 ちょうどゲーセンの辺りを歩いていると、黒いジャンパーの下にそのお店の制服を着たガタイのいい店員さん、このゲーセンの店長の磯浦颯人さんが声をかけてきた。

 俺たちは顔を見合わせ、店長の所まで小走りで向かった。

「「こんにちは店長(さん)」」

 俺たちは店長の元に行くと、揃って店長に挨拶をする。

 店長はちょうど休憩時間なのか、店の前でタバコを吸っていたのだが、俺たちが来ると吸うのをやめて、備え付けの灰皿にタバコを押し付けて火を消した。

「あ、すみません。せっかくタバコ吸われてたのに」

 店長が吸っていたタバコを見ると、まだだいぶ長く、恐らく吸い始めたばかりなのだろう。申し訳ない事をしてしまったかな。

「気にしなくていいよ中筋君。さすがに君達の前では吸えないし、それに俺も禁煙に向けて本数を減らしている最中だったから、むしろちょうど良かったよ」

 そう言ってもらえるとありがたい。

 店長、タバコを辞めるために頑張っているんだな。俺は未成年だからもちろんタバコは吸わないし、成人しても吸う気はないから、禁煙がどれだけ辛いのかわからないが、店長がタバコを辞められるように応援したい。

「ありがとうございます店長」

「君達は、今日は買い物?」

 店長が、俺の持っているエコバッグを見ながら聞いてきた。

「はい。この後綾奈が年越しそばを作ってくれるんです」

「テンション高いね中筋君。そういえば、西蓮寺さんは中筋君の家でお泊まりしてるんだっけ?」

 そりゃあ、綾奈の手料理は本当に美味しいから楽しみしかないんだよ。

 それより、なんで店長は綾奈が俺の家でお泊まりしているのを知ってるんだ?

「そうですけど……店長さん、知ってたんですね」

 綾奈が俺の聞きたかったことを照れながら聞いてくれた。

「うん。実は何日か前に麻里奈ちゃんに会ってね。その時に麻里奈ちゃんが話していたんだよ」

 店長は麻里姉ぇの旦那さんの松木翔太さんの親友で、当時は二人でかなりヤンチャをしていたそうだ。だから当然麻里姉ぇのことも知っているんだが、『麻里奈ちゃん』って聞き慣れないな。

「……お姉ちゃん、何か変なこと言ってませんでした?」

 麻里姉ぇはクールビューティなんだけど、時折イタズラめいた発言もするから綾奈の心配もわかる。一見とっつきにくそうな麻里姉ぇの可愛いところだ。

「変なこと? あぁ、確か「綾奈が真人にイチャつきを強要してないか心配」って言ってたな」

「ふぇ!?」

「ぶっ!!」

 麻里姉ぇ、店長になんてことを言ってるんだ!?

 毎晩綾奈がイチャつきに俺の部屋に来てくれるのは嬉しいけど、別に強要では……。

 そこまで考えて、冷静にこれまでの毎晩のやり取りを思い返す。

 確かに綾奈はめっちゃキスをせがんでくるし、遅い時間になってそろそろ寝ようと言っても、「もうちょっとだけ」と言ってキスをしたり、くっついてきたりしてきて、美奈の部屋に戻るのを渋るんだよな。

 嬉しいし、当然俺から求めることもあるが、その頻度は綾奈の方が多い。果たしてこれは強要なのか……?

 あ、でもスーパーに入る前に「今日はイチャつくのやめとく?」って聞いたら、「絶対嫌♡」って即答されたわ。

「き、強要なんてしてませんから! ね、真人!?」

 綾奈は顔を真っ赤にしながら力強く俺に同意を求めている。

 瞳は潤んでいて、首を上下にうんうんと揺らしている。それ、店長にバレバレなんじゃ……。

「え~っと………………ノーコメントで」

 俺はそう言って二人から顔を逸らした。

「う、裏切り者ー! バカー!!」

 綾奈から可愛い罵倒が聞こえてきたと思ったら、俺の腕をポカポカと叩いてきた。痛みはないのでされるがままになっている。

「あっはっは。やっぱり二人ともラブラブだね」

 店長が豪快に笑っていた。ガタイのいい人は笑い方も豪快になるのか?

「あぅ……店長さん。お姉ちゃんとお義兄さんには内緒にしてください」

 綾奈が上目遣いで店長に必死にお願いをしている。顔は赤いままだ。

「またうちで遊んでくれたらいいよ」

 俺たちは頻繁にこのゲーセンを利用しているので、店長が出した条件は実質無条件に等しかった。

「は、はい!もちろんです。……ほっ」

 店長の言葉に胸を撫で下ろす綾奈。

「というか、たとえ麻里姉ぇにバレてもイジられるだけなんじゃ……」

「そ、そうだとしても、やっぱり家族に知られるのは恥ずかしいから」

「あー、確かに」

 俺も家族にバレた時のことを想像してみた。もう美奈にはバレてるけど、父さんと母さんにバレてそれをイジられるとかなり恥ずかしいな。

 でもきっと、父さんも母さんも口に出してないだけで、俺達が毎晩イチャついているのは知ってるんだろうなぁ。だからと言ってやめられないんだけど。

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