第219話 変わるきっかけ
「それにしても」
「ん?」
「北内さんも変わったよね」
俺が最初に抱いていた北内さんの印象は内気な女の子だ。
クラスでもあまり目立つことも、自分から発言することもほとんどなかったんだけど、一学期の後半くらい……からだったかな? 多分それくらいから少しずつ、その性格に変化があらわれていった。
クラスで友達以外の人と話すようになり、思っていることも口に出すようになっていった。だから教室でも普通に俺にも話しかけてくる。
「……あのままじゃ、中筋君に振り向いてもらうことも、告白も出来っこないって思って、それで自分を変えたいって決意して、ね」
つまり、俺への想いが、自分を変えるきっかけ、そして原動力になってたんだ。それって……。
「そう、だったんだ。……俺と同じだね」
「え?」
俺は、ポケットにしまっていたスマホを取り出し、写真が保存されているアプリを開き、ある一枚の画像を表示した。
「これ、去年までの俺なんだ」
「え? 嘘!?」
そこに写っていたのは、中学の教室で休み時間にラノベを読んでいる俺だった。
ラノベに集中していた俺を、一哉がこっそり撮影し、メッセージアプリで送り付けられた写真だ。
そしてこの写真を送ってきたあと、一哉からこんなメッセージも届いた。
【そんなんじゃ西蓮寺さんに振り向いてもらえないぞ】
綾奈を好きになった中学三年の秋。ダイエットや生活習慣を改める前の俺は、どうすれば綾奈と仲良くなれるかを真剣に悩んでいた。おかげでこの時読んでいたラノベの内容もあまり頭に入ってこなかったっけ。
「え?今とは別人……というかまんま違う人みたい」
北内さんは目を見開き、食い入るように俺が向けたスマホをみている。
「なんとかして綾奈とお近付きになりたくてね。それで、ある事がきっかけで去年の冬休みからダイエットを始め、怠惰な生活もやめたんだ。綾奈と付き合いたいって気持ちで、この体型になるまでダイエットを頑張ったんだよ」
ある事……生徒会がいじめに関する劇を全校生徒の前でやっていて、ヒロインをつとめた綾奈が、主人公役の中村に告白するシーンを見て危機感を覚えたこと。
多分だけど、あれがなければ俺は今でも以前のような生活を送っていたかもしれないから、今の幸せな未来を掴んではいなかっただろう。
「私は去年の今頃にはもう真人を好きになっていたから、今の姿で再会した時は本当に心臓が破裂するんじゃないかってくらいドキドキしたよ」
……と思ったんだけど、そうだ……綾奈は俺の性格を知って好きになってくれたんだった。
じゃあ、結果ダイエットも生活態度を変える必要もなかったんじゃないかって思いそうだけど、綾奈がここまで俺にベタ惚れなのは、やっぱり今の俺があるからだと思う。
怠惰なままの俺だったら、いずれ綾奈に愛想を尽かされそうだし。
「じゃあ、もし中筋君がこの姿のままだったとしても、西蓮寺さんは変わらずにオーケーしてたんだ」
「うん。前の体型のままだったとしても、私は変わらずに真人のお嫁さんを名乗っていたよ」
綾奈はそう言うと、俺の身体の右側にピトッとくっついてきて、俺の顔を見て、にこっと微笑んだ。
「っ!」
その可愛すぎる笑顔にドキッとしながらも、俺は右手に持っていたコーヒーが入った缶を左手に持ち替え、空いた右手で綾奈の手を握った。
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