第218話 香織を警戒する綾奈

 俺たち三人は、通行人の邪魔にならない道路の端に移動し、話す前に自販機で飲み物を購入した。ちなみに買った物は、俺がホットコーヒーで、綾奈がホットココア、そして北内さんはコーラだった。

「北内さん、コーラ飲んで寒くならない?」

 俺は冬はあまり冷たい物を飲まないから、迷いなくコーラを購入していた北内さんに聞いてみた。

「私は普段から冷たい飲み物を飲んでるから大丈夫」

 俺とは違い、北内さんは冬でも普通に冷たい物を好んで飲んでいるみたいだ。

 北内さんはコーラを一口飲んで話を切り出した。

「じゃあ、中筋君の奥さんもいるから簡単に自己紹介をしとこうかな?私は風見高校一年の北内香織。中筋君とはクラスメイトで友達だよ。よろしくね」

 綾奈と北内さんは、お互いのことをほとんど知らないからと、北内さんはまず自己紹介をしてくれた。

「た、高崎高校一年の西蓮寺綾奈です。真人の恋人で妻です。よろしくお願いします」

 綾奈も自己紹介をしたんだけど、恋人で妻って……間違ってはないんだけど、クラスメイトにそう自己紹介しちゃうとやっぱり少し照れるな。

 それに、気のせいか綾奈の言葉にまだどこか北内さんに対する壁というか警戒みたいなものを感じてしまう。敬語なのもそれに拍車をかけている。

「あはは、さっきも言ったけど、もう中筋君に対しての恋愛感情はないから安心してよ。それに、同い年なんだから敬語も取ってくれるとありがたいな」

「う、うん」

 北内さんは嫌な顔一つ見せずに自ら歩み寄ってくれている。本当に、ただ純粋に綾奈と話をしてみたかったみたいだ。

「それにしても、西蓮寺さんが私にそう言うって事は、私が中筋君に抱いていた感情を知っていたんだね?」

「うん。北内さんに告白されたって真人から聞いていたし、初めて会った時に一緒にいた私の親友が北内さんを見てその想いに気づいたから知っていたの」

「親友って、あのギャルの人か。まさか初見で見破られてたなんてね」

 北内さんは苦笑して頬をポリポリとかいている。

 俺も北内さんに告白されるまで全然知らなかったし、それだけでわかってしまう千佳さんもさすがだな。

「私の親友も、清水君から聞いていたから多分そうだろうって」

「え?健太郎が?」

「うん」

 健太郎が北内さんの気持ちに気づいていたのは初耳だ。綾奈に北内さんの告白を伝えた時には健太郎の事は言ってなかったし。

「清水君にはバレてたんだね。というか、清水君の彼女さんって、西蓮寺さんの親友のギャルの人?」

「そうだよ。宮原千佳さんっていって、健太郎とめっちゃラブラブだよ」

 普段はあまり俺たちの前でイチャついたりしない二人だけど、その絆は本物で、ぶ厚い信頼関係と、めっちゃ熱いラブラブっぷりで結ばれている。

「中筋君にそう言わせるってことは、清水君達も相当愛し合ってるんだね」

 北内さんは微笑みながら言ったけど、さっきの発言に含みがあるような気がしてならない。

「俺にってなんだよ?」

「教室で山根君が言ってたけど、お互い奥さんとか旦那様って言い合っていて、うちの高校の文化祭の時、三年生の教室でも西蓮寺さんとめっちゃイチャイチャしていた中筋君に言わせるんだから、清水君達も相当なものでしょ?」

 微笑みから一変、一哉が俺をイジる時に見せる表情をした北内さん。

 それより、なんで風見の文化祭で俺と綾奈が三年の教室に居たのを知ってるんだ?

「え?北内さん、あの時近くにいたの?」

「そうだよ。偶然通りかかったんだけど、中筋君の声が聞こえてきたから教室を覗き込んだんだけど、まさか執事服を着て西蓮寺さんとイチャイチャしてるとは思わなかったな」

 うわー、なんてことだ……あれを見られていたなんて。

 あの場には俺たちと、健太郎のお姉さんの雛先輩しかいなかったから完全に油断してた。

 北内さんは、からかいの表情をやめ、目を瞑った。

「あの執事服を着た中筋君、かっこよかったなー」

 どうやら俺の執事服姿を思い出しているようだ。クラスメイトにそう言われると、なんか綾奈に言われるより照れてしまうな。

「うん。いつもかっこいい真人だけど、あの時はいつも以上にドキドキしたよ」

 綾奈もあの時のことを思い出しているみたいだ。

 その微笑みはめちゃくちゃ可愛くてガン見したいけど、なんかむず痒い。

「はっ!」

 俺の執事服姿を思い出して微笑んでいた綾奈が、突然何かを思い出したような顔をし、頬を膨らませ、眉を上げて北内さんを見た。

「むぅ……北内さん、やっぱりまだ真人のこと好きなんじゃ……」

 綾奈さん、まだ疑っているんですか?

 北内さんのあの告白以降、たまに話しかけてきてくれるけど、それは本当に友達と話すような感じで、好きな人に対してのものではない。学校の違う綾奈がそれを知らないのは無理もないけど、疑いすぎな気が……いや、めっちゃ嬉しいんだよ。綾奈に愛されているって実感出来るから。

「心配性だなぁ。まぁ、あの時はまだ中筋君への恋心が残ってたから美化されて凄くかっこよく映ったのかもしれないね。……というか中筋君」

「な、何?」

 北内さんが真面目な表情、そして真面目な顔で俺の名を呼んだ。え?何を言うつもりなんだ?

「西蓮寺さんめっちゃ可愛くない?」

「ふぇ!?」

 真面目な顔で何を言うかと思ったら……至極当然なことを言ったな。

「そんなの当たり前じゃん」

「ま、真人!?」

「綾奈は可愛くて優しくて、料理も完璧で人への気配りもできる。期末試験では学年一位を取ってめっちゃ頭いいけどたまに抜けてるところもたまらなく可愛い。俺の最高の彼女でお嫁さんだよ」

 綾奈のいいところ、好きなところを挙げていくとキリがない。それだけ綾奈のことが大好きだ。

「あー、うん、そうだね。ごちそうさま」

「そ、そういうのは、二人きりの時に言ってよ……バカ」

 あれ? 北内さんからは呆れの眼差しを向けられ、そして綾奈からは可愛い罵声を浴びせられた。

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