第217話 二人の前に現れたのは……

 食材を買って、スーパーを後にした俺たちは、アーケードをあてもなく歩いていた。

 俺は片方の手で買い込んだ食材が入っているエコバッグを持ち、もう片方は綾奈と手を繋いでいる。

「真人、荷物重くない?」

 綾奈は心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

 さっきの店員さんとのやり取りで綾奈への愛しさが増している俺は、もう何度もそんな表情を見てきたはずなのに、すごくドキドキしている。

「大丈夫だよ。年越しそばに使う食材とウインナー、その他にはあまり入ってないし」

 実際そんなに重くはない。去年から筋トレをしていて筋力が上がっているからこれくらいは余裕で持つことが出来る。

「うん。もし重くなったら持ち手の片方を持つから遠慮しないで言ってね」

 そう言って綾奈は俺に満面の笑みを向けてくれた。その笑顔を見て俺の心臓の鼓動はさらに早く、うるさくなった。

 でも、買い物袋を二人で持ち合うって、考えるとすごく夫婦のやり取りっぽいよな。

 ちょっとしてみたくなってきたので、家までの距離が半分くらいになったら綾奈に頼んでみようかな?

 綾奈と二人で買い物袋を持ち合う光景を想像し、俺の口角は自然と上がっていった。

「あれ?もしかして中筋君?」

「え?」

 俺と綾奈が初めて放課後デートをした時に寄った書店を少し過ぎたところで、背後から俺を呼ぶ声が聞こえたので、俺たち二人は後ろを振り向いた。

「北内さん?」

 そこにいたのは俺のクラスメイトで、ショートカットの髪がよく似合う美少女、北内香織さんだった。

 北内さんとこのアーケードで会うのは初めて、というかプライベートで会うこと自体初めてだ。

「え?北内さんの家ってこの辺?」

「ううん、違うよ。何か面白い本がないか色々探しててね。それで初めてこの本屋に寄ったんだよ。まさか中筋君に会うとは思わなかったけどね」

「それはこっちのセリフだよ」

 北内さんは「確かに」と言って笑い、俺も北内さんと偶然会った驚きはなくなり、笑っていた。

 その直後、俺の腕に衝撃が走った。見ると、綾奈が俺の腕に抱きついていた。

「あ、綾奈!?」

「むぅ……ま、真人は絶対にあげないもん!」

 綾奈は北内さんを睨んで威嚇していた。

 以前、高崎高校の校門前でこんなことあったな。

「「…………」」

 綾奈の言葉に俺と北内さんはぽかんとした表情で綾奈を見る。

 いやいや綾奈さん。北内さんが俺のこと好きだったのはもう過去の話なんだから、今更彼女が俺に特別な好意を向けるなんて事はないから、そんなに北内さんを威嚇しなくても大丈夫だから。

「…………ぷっ」

 俺が内心でこの状況にハラハラしていると、突然北内さんが吹き出した。

「あっはは!私はもう中筋君のことは普通に友達としか思ってないから。だから安心してよ、中筋君の奥さん」

 堪えきれずに笑いだした北内さんは、涙を拭いながら言った。

「ふぇ!?」

 北内さんの言葉を聞いた綾奈はビックリしている。俺の腕にしがみついている力を少し弱めた。

「ここじゃあ通行人の邪魔になるから、よかったらあっちで話さない?」

 北内さんが道路の端を指さした。確かにアーケードのど真ん中で話していると通行人に申し訳ないし、あっちには自販機もあるからちょうどいいか。

「俺は全然構わないよ。綾奈は?」

「わ、私も大丈夫」

「決まり。じゃあ二人とも行こう」

 こうして俺たち三人は移動した。

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