第216話 愛情がプラスされたウインナー
「それじゃあ、そんな幸せなご夫婦に、おばさんがサービスしてあげるわ」
店員さんは、爪楊枝に刺した一口サイズのウインナーをもう一本ずつ俺たちに手渡してきた。
「本当は一人一本になってるんだけど、オマケでもう一本あげちゃうわ」
「ありがとうございます」
店員さんにお礼を言って、早速一本をいただく。
噛むとパキッと音がなり、中から肉汁が出てとても美味しい。
「めっちゃ美味しいです」
「でしょ?このウインナーは私も大好きなのよ」
どうやら店員さんのおすすめ商品だったようだ。
「ね、あや……な?」
「むぅ……」
綾奈を見ると、頬が膨らんでご機嫌ななめのご様子だ。それに、手に持っていたウインナーが刺さった爪楊枝を俺の方に向けている。え? これってもしかして……。
「綾奈さん、もしかしてあーんをしようとしてましたか?」
「……うん」
やっぱりか。というか、こんな人がいっぱいいるところで?
ここには店員さんもいるし、それに周りにも俺たち以外のお客さんが大勢いるのに、綾奈はこんな状況でもあーんをしようというのか。
でも、俺もまんざらでもないんだよな。もしかしたら、初めてあーんをした時、あの時も一哉と千佳さんがいたから、この大勢の人がいる中で同じことをやるにも、羞恥心がそこまでないのかもしれない。
「はむっ!」
俺はしょんぼりしている綾奈が差し出したままになっているウインナーを食べた。
「あっ」
それをゆっくりと咀嚼する。なんだろう、さっき食べたのと全く同じなのに何か違う気がする。
「おいしい?」
綾奈が味の感想を聞いてきたので、俺は口の中のウインナーを飲み込んで感想を言った。
「美味しいよ。すごく」
「えへへ♡」
俺は笑顔で感想を伝えると、綾奈は頬を赤くし、ふにゃっと笑っていた。
なるほど、さっき食べたウインナーと違うと思ったのは、きっと綾奈があーんをしてくれたからだ。綾奈の愛情がプラスされてより美味しく感じられたんだ。
「綾奈も食べてみてよ」
「うん」
俺が促すと、綾奈は自身が持っていたもう一本のウインナーを口に運び咀嚼した。自分の指で口元を隠しながら食べているのがかわいい。
「本当、おいしいね!」
「うふふ、奥さんもありがとうね」
「お、奥さん……」
店員さんに奥さんと言われ、顔を真っ赤にしている綾奈。そういや俺以外の人に言われたのって初めてじゃないか?
「真人。お、奥さんって言われちゃった!」
さっきまでふくれっ面からのしょんぼり顔だったのに、今はすごく嬉しそうな顔をしている。この数分でコロコロと表情を変える綾奈、見ていて飽きない。普段でも飽きることなんてないけど。
「そうだね。世界一かわいい奥さんだよ」
そう言って、俺はふにゃっとした笑みを浮かべている綾奈に、自分の持っていたウインナーが刺さった爪楊枝を綾奈の口の近くに持っていった。
「こっちも食べてよ」
「う、うん」
綾奈は少し照れくさそうに、俺が持っているウインナーを食べた。自分がされる側だと照れるんだ。
綾奈もゆっくりと咀嚼して飲み込み、そして驚きの表情をした。
「やっぱりおいしいけど、さっき食べたのよりおいしい気がする。なんで?」
やはり綾奈も俺と同じ感想を抱いてくれていた。胸が熱くなる。
「きっと旦那さんに食べさせてもらったからじゃないかしら?」
店員さんが俺の思っていたことを代弁してくれた。
「じ、実は、俺も綾奈が食べさせてくれたウインナーの方が美味しいって思ったんだ」
「そうなの?」
「うん。……綾奈の愛情がプラスされた気がして、ね」
「じゃあ、真人もさっきのウインナーに、私への愛情を入れてくれたの?」
「あ、当たり前だろ」
俺は照れくさくなり、綾奈から目を逸らし、右手の甲で自分の口を隠した。
「ありがとう、真人」
目を逸らしている俺に、綾奈の慈愛に満ちた優しい声が聞こえた。正直、綾奈を見てなくてよかったと思う。見ていたら自分が抑えられなくて、綾奈を抱きしめていただろうから。
「うふふ、いいものを見せてもらったわ。二人とも、これからも仲良くね」
「「はい!」」
店員さんに揃って返事をし、さっき試食したウインナーを二袋カゴに入れ、店員さんに一礼してからその場を後にし、レジへ向かった。
さっきの一幕で、俺は無性に綾奈と手を繋ぎたかったが、カートを押していたため出来なかったけど、綾奈が俺にピトッと寄り添い、片方の手を俺の手の上に乗せて一緒にカートを押してくれた。
綾奈も俺と手を繋ぎたかったみたいで、考えてることが一緒なことに、俺は胸が熱くなった。
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