第215話 スーパーに到着

 俺達二人はアーケード内にあるスーパーにやって来た。

 その目的は、年越しそばの材料を買うためだ。今年の年越しそばは綾奈が作ってくれる。それを聞いた時から楽しみでしかない。

 ここより大きいショッピングモール行けば、さらに豊富な種類から選ぶことが出来るのだが、大晦日のショッピングモールはここよりさらに混雑しているのと、移動手段が電車の為なのもあり、こっちのスーパーに行くことにした。

 電車内も、駅の構内も人がいっぱいなのは想像に難しくなく、買ってきた食材を抱えたまま満員電車に揺られるのは綾奈に負担がかかるためだ。

 それを言うと、綾奈は大丈夫と言っていたけど、満員電車のどさくさに紛れて綾奈に変なことをする奴がいないとも限らないので、俺はこのスーパーで買い物をする意見を押し通したのだ。

 俺がカートを引き、綾奈が食材を吟味してカゴに入れる役割分担。

 俺は料理は好きだからたまにやるが、こういった買い物は恥ずかしながらほとんどやったことがなく、母さん任せだった。料理はいつも冷蔵庫にある食材で適当に作るだけだった。今後は食材を買うのも自分でやっていかないとな。でないと将来、綾奈に任せっきりになってしまう。

「いらっしゃいませー。ウインナーいかがですかー?」

 惣菜コーナーを見ていると、四十代前半くらいの女性の店員さんが試食用のウインナーをホットプレートで焼いていた。

「美味しそうだね」

「そうだね」

 ウインナーは味はもちろんだけど、あの噛んだ時の音が好きなんだよな。あの音を聞きたいがためについつい食べ過ぎてしまい、美奈に文句を言われることがよくあったな。

「そこの若いご夫婦さん、おひとついかがですか?」

 店員さんが俺たちの方を見ながら、爪楊枝に刺した一口サイズに切ったウインナーを一本ずつ両手で持って言ってきた。

「えっ!?」

 店員さんの言葉に過剰に反応している綾奈。多分ご夫婦さんに反応してしまったんだろう。俺も少し照れくさい。

 綾奈はとてとてと小走りでその店員さんに向かっていったので、俺もカートを押しながらゆっくりとそっちに向かって歩く。

「や、やっぱり私たちって夫婦に見えますか!?」

 おいおい綾奈さんや。店員さんに何を聞いているんですか?

「ええ、それはもう。遠くから見ていたけど、とても仲睦まじい幸せそうな美男美女夫婦だと思ったわよ」

 店員さんも答えなくていいから。聞いてるこっちが照れるから。

「あ、ありがとうございます! 真人真人!やっぱり私たち夫婦に見えるみたいだよ!」

 綾奈が俺の方を向いて手招きしている。テンションが高く、頬が赤くめっちゃ嬉々とした顔をしている。見ているこっちも自然と笑顔になる、そんな表情だ。

「まぁ、俺たちはほぼ夫婦みたいなものだしね」

「あら?そう言うってことは、あなた達はまだ夫婦じゃないの?」

 菊本きくもとの文字が入った名札を付けた店員さんが当然ともいえる疑問を俺たちに向けてきた。その間もウインナーを焼いていて、焼けたウインナーを紙の小皿に移動させている。プロの技だな。

「そうですね。確かに将来結婚の約束をしていますが、俺たちはまだ高校一年なので」

 俺も綾奈も早生まれだからまだ十五歳で、綾奈もまだ結婚できる年齢に達していない。

「あら、そうだったの!?すごく幸せそうに二人で歩いてたからてっきり夫婦だと思ったのだけど……ごめんなさいね」

 店員さんは律儀に謝ってきた。いや、全然謝る必要ないんだけどね。むしろ……。

「いえ、夫婦と思われてすごく嬉しかったので、謝らないでください」

 俺も綾奈と全くの同意見なので、俺は綾奈の言葉に頷いた。店員さんの謝罪は受け取らない姿勢だ。

「もしかして、二人は同棲してるのかしら?」

「「え?」」

「いえ、まだ夫婦ではないのにこうやって一緒に年越しそばの材料を買い込んでいるからそうだと思ったのだけれど、これも違ったかしら?」

「冬休み中は彼女が俺の家でお泊まりをしているので、それでこうして一緒に買い物をしているんですよ」

 だから、店員さんが言ったことは間違いではない。

「あらそうなの?じゃあ毎日とっても楽しいでしょ?」

「はい!毎日楽しくて本当に幸せです」

「俺も彼女と全く同じです」

 朝起きてから眠るまで、愛する人が同じ家にずっといるんだ。これが幸せじゃないわけがない。

 でも、この幸せな時間も終わりが存在する。冬休みが終われば綾奈は自分の家に帰ってしまう。

 それが普通な事だし、弘樹さんと明奈さんもそう思っているはずだ。……でも、俺は───。

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