第213話 互いをナンパから守ることを誓う二人
今日は十二月三十一日の大晦日。
俺は綾奈と一緒にアーケードにやって来た。
やはり年の瀬ということもあり、行き交う人がめっちゃ多い。
普段の休日はなかなか人が多いなと思っていたが、今はそれが可愛く見えるほど人が多い。
俺たちと同じ学生は冬休みを満喫していて、カラオケやゲーセン、書店には多くの自転車が駐輪されており、店の周りでだべっているグループも見受けられる。
アパレルショップや個人経営のお店にも、若者からご年配の、主に女性客が多く集まっている。
「すごい人だね」
綾奈も同じことを思ったのか、驚いて感想を口にしていた。
「だね。はぐれないようにしないとな」
この人混みではぐれてしまったら再度合流するのもなかなかに骨が折れそうだ。スマホという文明の利器があって、お互いの現在位置を確認するのは容易だけど、そこに行くまでが大変だ。
「手を繋いでるからはぐれる心配はないよ」
「確かに。でも万が一ってこともあるから気をつけよう」
何かしら混雑に巻き込まれて手が離れてしまうかもしれないから、常に綾奈と繋いでいる手には意識を集中しておかなければならない。
「真人は心配性だよぉ」
綾奈はそう言ってくすくすと笑っている。
「そりゃあ心配にもなるさ。はぐれると綾奈に変な男が寄ってきそうだから。そういった危険もあるから俺は綾奈の手を絶対に離したくないんだよ」
人混みをよく観察していると、男が数人組で歩いている集団をけっこう見る。
中にはチャラい男もいて、ああいった手合いは大抵ナンパ出来そうな女の子を探しているはずだ。めちゃくちゃ可愛くて大人しい綾奈はナンパ男達を引き付けてしまいそうだから、俺がしっかりと守らなければいけない。
「私も真人の手は絶対に離さないよ。でも、もし離れてしまって私がナンパされても、左手の指輪を見せたら婚約者がいるってわかると思うんだけど」
「確かにそれで諦めるのもいると思うけど、中にはそれでも強引に誘ってワンチャンを狙う輩もいるだろうからさ」
さっき見たチャラ男達は明らかにその部類に入るだろう。たとえ将来を誓い合った相手がいようが、そいつらはお構いなしに誘おうとするだろう。彼氏のことは忘れてとか言って。
ただ、それは綾奈には地雷でしかないので、言われた瞬間どんな相手だろうとブチギレるだろうな。
以前、高崎高校の合宿部が、全国大会の時に泊まった東京の旅館で阿島が言った時や、このアーケード内のゲーセンで中村が俺を罵倒した時のように。
それは彼氏からしたらすごく嬉しいんだけど、同時に相手を逆上させかねない諸刃の剣だ。
それぞれの件では、阿島の時は麻里姉ぇが、中村の時はなぜか中村が恐れおののいている千佳さんや、店長の磯浦さんがいたから事なきを得たようなものだ。だから、俺はこういった場所ではなるべく綾奈を一人にはしたくない。
「じゃあ、私も真人の手を絶対に離さないようにしないと」
綾奈は俺と握っている手に力を込めた。というか、さっきの言葉はまるで……。
「俺が逆ナンにあいそうなセリフだね」
俺が逆ナンにあうとかありえないだろ。俺を恋愛対象として見てくれたのは、俺の知る限りでは綾奈と、あとはクラスメイトの北内さんだけだ。
そんなほとんどモテたことのない俺がナンパにあう可能性は極めて低いだろう。
「私はそう思ってるよ」
それでも綾奈は俺が逆ナンにあうと思っているみたいだ。
「いやいや、ないだろ」
「むぅ……全国大会前日にあったこと、忘れてる?」
綾奈はプクッと頬を膨らませながら言った。怒っていてもやっぱり可愛い。
「全国大会前日にあったこと?…………あ」
思い出した。あの時俺は部活で疲れた綾奈を労おうと、健太郎と一緒に綾奈達の部活が終わるのを高崎高校の校門で待っていたんだ。
でも、待っている間に陽キャな女子二人が俺達に声をかけてきて逆ナンにあったんだった。
「で、でもあの二人組は健太郎目当てで近づいてきた人達だから。俺はオマケとして誘われただけだよ」
「でも、真人もかっこいいって思われたのは確かだから。もう旦那様がナンパされるのは見たくないから、私も絶対に真人の手を離さないからね」
「っ!」
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