第210話 勝者へのご褒美。それは……
俺は心が決まり、足の上に置いていた両手を、ゆっくりと上に上げていき……。
パンッ!と音と共に、顔の前で両手のひらを合わせた。
「ごめんマコちゃん。やっぱり頭を撫でるのは無しに出来ないかな?」
俺はマコちゃんに、ご褒美の撤回を申し出た。
「……え?」
少し照れくさそうにもじもじしていたマコちゃんは、俺の行動に驚いてキョトンとしていた。
「え~!?お兄ちゃん、それはちょっとダメじゃない?」
まぁ、当然ながら美奈は抗議するよな。これは予想に難しくなかった。
「美奈も本当にすまない。でも、やっぱり綾奈以外の女の子を頭を撫でるのは、俺には出来ない。綾奈の悲しい顔を見るのは耐えられないんだよ」
俺は正直に自分の気持ちを打ち明けた。二人には本当に悪いと思っているが、この部屋を出ていく際に見えた綾奈の辛そうな表情が頭から離れなかった。
あの表情を見て、俺の脳裏に高崎高校の文化祭で起きたある出来事が思い浮かんだ。
綾奈と文化祭デートの約束をし、校舎の玄関前で綾奈を待っていると、そこで茜に会った。
綾奈を待っている間、茜と話をしながらその近辺をぶらついていたんだけど、綾奈が反対側から来た人と思い切りぶつかって、バランスを崩し倒れそうになったところを、俺が強引に引き寄せてしまい抱きしめる形になってしまった。
偶然その場面だけ目撃してしまった綾奈は、目に涙を浮かべてそのまま校舎へと再び入ってしまった。
あの時の綾奈の、とてつもないショックを受けた表情は、今でも鮮明に思い出せる。
今回はあの時程の事じゃないにしても、綾奈の悲しい顔は二度と見たくない。
「西蓮寺先輩、とっても辛そうな表情されてましたもんね。真人先輩の理由ももっともだと思います」
「マコちゃんも見てたんだね。……その、本当にごめん」
「気にしないでください。私も西蓮寺先輩への配慮が足りなかったのも事実ですから」
マコちゃんは本当に謙虚だなぁ。愛らしいルックスも相まって、学校ではかなりモテるんじゃないか?
「でも、それだと優勝賞品はどうするの?」
当初のご褒美を無しにするのには納得してくれた美奈。だが、優勝賞品自体を無しにするつもりはないようだ。
美奈の性格上、そうなるのは知っていたので大して驚きもしない。
「お前がそう言うと思って、実は代わりになるご褒美を考えた」
直接マコちゃんの身体に触るようなことではないんだけど、これを実行するのはなかなかに恥ずかしい。
でも、頭撫でを無しにしてもらったんだ。多少の羞恥心なんて甘んじて受けるだけだ。
俺は咳払いを一つして、真っ直ぐ、そして俺が出来る最大限の優しい笑顔を作り、マコちゃんに微笑んだ。
「優勝おめでとう茉子。さすが、俺の自慢の妹だ」
最大限優しい口調を心がけて言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます