第205話 妹二人は距離を詰める
俺が人数分のマグカップが乗ったトレイを持って自分の部屋に行くと、美奈とマコちゃんが既に座っていた。美奈と一緒に脱衣所に入っていった綾奈は戻ってないな。どこに行ったんだ?
「お兄ちゃん、こっちに座って」
そう言って美奈は、自分とマコちゃんの間をぽんぽんと叩き、そこに誘導する。
「マコちゃんは美奈の隣の方がいいんじゃないか?」
マコちゃんは俺の部屋に入るのはこれで二度目だ。いつも一緒にいる美奈と隣同士の方が落ち着くだろうし、会話も出来るからいいと思うんだけどな。
「私は全然大丈夫ですので、真人先輩は遠慮しないでここに座ってください」
マコちゃんに言われると、こちらとしては何も言えなくなるので、俺はゲーム機を起動させて二人の間に腰掛けた。
……なんか二人共、距離が近い気がする。
俺と両サイドの二人の距離は人一人分もない。美奈はまだこの距離感はわからなくもないんだけど、マコちゃんにとったら……やっぱり近い気がする。
その時部屋のドアが開き、綾奈が入ってきた。
綾奈は俺たちを見て少しびっくりした様子を見せたかと思ったら、それからは特に気にした様子もなく、マコちゃんの隣に腰を下ろした。
俺は綾奈が少なからず怒るのではないかと心配していたのだが、やっぱり妹とその親友の中学二年生の女の子には嫉妬はしないみたいだ。
俺もマコちゃん相手に変にドキドキしたりはしないんだけど、やっぱりこの位置で長時間ゲームをするとなると落ち着かないし、綾奈にも悪いと思うので、俺は一番落ち着く婚約者の隣に移動しようとし、腰を上げようとして……。
「お兄ちゃん、どこ行くの?」
美奈に腕を掴まれて止められた。これは予想外だったし、美奈がにこにこしてるのも予想外だ。
「いや、綾奈の隣に移動しようかと……」
「え~、いいじゃんここでも。お義姉ちゃんとは今夜もイチャイチャするんだから」
「イ、イチャイチャ……!」
いや、確かに今日もイチャイチャするんだけどさ……。ここには俺たち以外にマコちゃんもいるんだぞ。
そのマコちゃんは「イチャイチャ」という言葉にめっちゃ顔を赤くしている。恐らくだがこういった話題にあまり耐性がないのかもしれない。
「私はいいから、真人はそこに座ってて」
「わ、わかった」
綾奈にそう言われてはもう何も言えないので、俺は再び腰を下ろした。
「ところで、どのゲームをやるんだ?」
「これ!」
そう言って美奈が指さしたのは、四人対戦が出来る、吹っ飛ばしアクションゲームだ。
様々な攻撃やアイテムを駆使して相手にダメージを与え、画面外に吹き飛ばせば勝利となる。
キャラやステージ、アイテムも豊富なみんなでワイワイ楽しめるゲームだ。
「マコちゃん、このゲームで大丈夫?」
美奈がゲームを決めてしまったが、ゲストはマコちゃんだ。マコちゃんが難色を示したら、さすがにこのゲームをやるわけにはいかない。
「私は大丈夫です。お気遣いありがとうございます真人先輩」
どうやらマコちゃんも良いみたいだ。笑顔で俺にお礼を言ってきた。
「わかった。綾奈もこれでいい?」
綾奈はこのお泊まりで何度かこのゲームをプレイしているのだが、アクションゲームが苦手なのか、それほど強くないCPUにも苦戦したり、たまに負けたりもしているので、もしかしたら綾奈は楽しめないかもと思い、念の為綾奈にも聞いてみた。
「私も大丈夫だよ。ありがとう真人」
「綾奈」
綾奈が微笑んで、俺の心臓はドキリとする。
間にマコちゃんがいて良かったかもしれない。隣でこんな可愛い笑顔を向けられたら、もしかしたらキスをしていたかもしれないから。
「はいはい。イチャつくのはマコちゃんが帰ってからにしてね」
「「あ……」」
美奈に言われてハッとした。
隣のマコちゃんを見たら、顔を俯けて「うぅ~」と唸っていた。
髪に隠れてその表情まではわからなかったが、髪の間から覗く耳は真っ赤になっていた。
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