第204話 茉子の気持ちを知る綾奈

 私は美奈ちゃんを連れて脱衣所へと入った。

 さっきマコちゃんがボソッと言った一言がどうしても気になってしまって、親友の美奈ちゃんならマコちゃんが何を思っているのかを知っているはずだから、それを聞こうと思って美奈ちゃんを連れ出した。

「それで? お義姉ちゃんはマコちゃんの何を聞きたいの?」

「ふぇ!?」

 どうやら私が何を知りたいのか美奈ちゃんにはバレていたみたい。

「な、なんで……!?」

「だってお義姉ちゃん分かりやすすぎるんだもん」

 そ、そんなに顔や行動に出てたかな!?美奈ちゃんの言葉に私はあたふたしてしまう。

「マコちゃんがお兄ちゃんをどう思っているか、でしょ?」

 見事に言い当てられてしまって反論出来ない。

「う、うん。……マコちゃんって、真人が好きなの?」

 隠しても意味はないので、私はいきなり本題を切り出した。

「……」

 すると美奈ちゃんは、顎に手を当てて何かを考えているみたいだ。

 数秒考えるそぶりを見せて、美奈ちゃんは口を開いた。

「お義姉ちゃんなら大丈夫だと思うけど、誰にも話さないって約束してくれる?」

「もちろん。誰にも喋ったりしないよ」

 人のプライベートに関することだもん。無闇に言いふらして相手を傷つけたくないし、そもそもそんな趣味はないもん。

「マコちゃんはお兄ちゃんが好きだったよ。お義姉ちゃんがお兄ちゃんを好きになるずっと前から」

「……やっぱり」

 マコちゃんは美奈ちゃんの親友で、この家にも何度も来ているから当然真人ともかなり前から面識があったはず。だから真人の魅力に気づかないわけがないし、真人に惹かれるのもわかる。私がまさにそれだから。

 やっぱり真人は魅力的でモテるんだ。

「でもお義姉ちゃんは気にしないでいいよ。マコちゃんはもうお兄ちゃんへの想いを断ち切ってるって言ってたから」

 私が暗い表情をしていたからか、美奈ちゃんがフォローを入れてくれた。

「そうなの?」

「うん。お兄ちゃんとお義姉ちゃんの仲睦まじいエピソードを聞いた時にね。その後ちょっと色々あったけど、今はお兄ちゃんへの恋愛感情はもうないって本人が言ってたから」

「……そうなんだ。教えてくれてありがとう美奈ちゃん」

 マコちゃんへの申し訳ないって気持ちは少しだけあるけど、それを表に出してしまうとマコちゃんに同情しているような感じになってしまう。

 そうなったらマコちゃんに失礼だし、私を生涯のパートナーに選んでくれた真人に対しても失礼になるから、私はこれ以上気にしないようにした。

「マコちゃんは今、お兄ちゃんの妹ポジを狙っているって言ってたよ」

「妹ポジ?」

「うん。恋人がダメだったからお兄ちゃんに妹として見てもらうんだって。前向きだよね」

 確かに。そう思うまでに色々と思い悩んだかもしれない。

 私だったらあまり関わらないように距離を置いたかもしれない。そもそも完全に立ち直れたかどうか……。

「お兄ちゃんもマコちゃんを妹みたいに思ってるって言ったことがあるから、ある意味ではこれが理想の形かもしれないね」

 美奈ちゃんはもちろんだけど、マコちゃんみたいに愛らしい妹がいたら楽しいだろうし甘やかしたくなっちゃうかもしれない。

「だからお義姉ちゃん……」

 マコちゃんが妹になった場合を想像していると、美奈ちゃんが何かを言いたそうにしていた。何やら不敵な笑みを浮かべていて、よくないことを言いそうな顔だった。

「……妹二人がお兄ちゃんに甘えても許してね?」

「へ?」

 意味深な言葉を残して、美奈ちゃんは脱衣所から出て階段を上っていった。

 何か嫌な予感がしたから、少しだけマコちゃんと、そして美奈ちゃんにも警戒をするようにして、私も真人の部屋に入った。

 すると、真人も既に部屋に戻っていて、真人の両隣は既に美奈ちゃんとマコちゃんに占領されていた。

 それを見て、思うところがないと言えば嘘になるけど、私は真人の奥さんだし、真人の心が私にあるのも知ってるから、私は特に気にしてないていを装い、マコちゃんの隣に座った。

 私の感情の機微に気づいてるっぽい美奈ちゃんが、私を見てニヤニヤしているのはちょっと「むぅ」ってなっちゃったけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る