第200話 久しぶりの甘えモードマックス

「んっ」

「ちょっ!?」

 俺の手をどこに持っていくのかをほうけて見ていたが、えらいところに持っていかれて驚きの声を上げたが、手は綾奈の太ももから離れなかった。

 美しい綾奈の太ももは、信じられないくらい柔らかく、触り心地抜群で、ほんのり温かい。これはお風呂上がりだけが理由ではない気がする。

 それにさっき聞こえた綾奈の艶めかし声に、俺はさらにドキドキしている。手汗をかいて綾奈の足をベタベタにしたらどうしよう。

「あ、綾奈!?」

「もっと……触っていいよ」

「っ!」

 綾奈の扇情的ともとれる言葉に、俺はまた心臓が跳ねるのを感じた。この短時間で何回目だ?

 その言葉に従うように、俺は手を、綾奈の太ももを触ったまま、自分の方へと移動させた。

「……あんっ!」

 綾奈はピクっと身体を動かし、今まで聞いたことのないような、可愛くも、それでいてセクシーな声を上げた。

 ヤバい。このままだと本当に理性がなくなる。これ以上の行為に及べば、綾奈に恐怖を与えることになりかねない。

 綾奈を見ると、頬だけでなく耳まで真っ赤で、息づかいも荒くなっていて非常に蠱惑的で、見ていると俺の顔も熱くなり心臓の鼓動もさらに早くなる。

 俺は全神経を綾奈の太ももを触っている左手に集中させ、綾奈の足を離すよう脳から左手に命令を送る。

 しかし、それより早く綾奈が動き、自分の顔を俺の顔に近づけてきた。

 いけない。ここで綾奈とキスをすれば、俺の理性はマジで跡形もなく消し飛ぶ……!

「綾奈!」

 俺は空いていた右手で綾奈の肩を掴み、綾奈の侵攻を間一髪で防いだ。鼻先が触れ合ってしまいそうなほど近い。

「か、髪を乾かさないと風邪を引くよ?」

 苦しまぎれだが、綾奈がここに来た理由の一つを口にして、何とか綾奈のキスを阻止しようとする。

「……その前に、ちゅうしたい」

 綾奈が力を入れ、少し強引にキスをしてこようとするので、俺はそれ以上の力を右手に入れ、綾奈の動きを止める。

「ほら、早く乾かさないと本当に風邪を引くよ?風邪引いたら明日から遊べなくなっちゃうから、だから先に髪を乾かそう。ね?」

 俺は、わがままを言う子供をあやすように、優しく綾奈に声をかける。頼む、これで引いてくれ!

「むぅ…………ちょっとだけでもちゅうしたい。……ダメ?」

 ダメだ、引き下がってくれない。

 そしていつの間にか甘えモードマックスになってしまっている。これはちょっとやそっとじゃ聞き入れてくれない。……仕方ないな。

「綾奈」

「ん~?」

 甘えモードマックスの綾奈は相槌も可愛くなってる。

「今ここでキスをしたら、多分俺は止まらなくなる。そうなったらキスだけじゃ済まないし、綾奈に怖い思いをさせてしまうかもしれない。だから髪を乾かしてる間にクールダウンしたい。だからお願い。先に髪を乾かそ?」

 俺は本当のことを口にした。これでダメならもう本能に身を委ねるしかないが……。

「……髪を乾かしたら、本当にちゅうしてくれる?」

「もちろん。俺だって綾奈とキスしたくないわけじゃないからさ」

「……いっぱいしてくれる?」

「っ!……あ、あぁ、もちろん。綾奈の気の済むまですると約束する」

「じゃあ、指きり」

 綾奈はそう言って、小指を出してきた。

 綾奈と指きりをするの、久しぶりだな。

 確か最後にしたのは、初めて一緒にゲーセンに行った帰りだったかな?

 俺は綾奈の小指に、自分の小指を絡めて指きりをした。

「綾奈も、俺の気の済むまで付き合ってもらうけど、いい?」

「もちろん!」

 綾奈は満面の笑みを向けてくれた。今の綾奈の一挙手一投足が俺の理性にダメージを与えてくる。

「じゃあ、お願いします♡」

 俺にドライヤーを手渡すと、綾奈は俺に背中を向けた。どうやら甘えモードマックスは解除されていないみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る