第194話 気になるのはやっぱり……

「なに? ちぃちゃん」

「真人とは?」

「ふぇ!?」

 ちぃちゃんがいきなりとんでもないことを聞いてきた。

 この手の話は疎いほうだけど、その質問の意味が何なのかを知らないほどではない。

「クリスマスイブにそんな指輪を貰って? しかも左手の薬指にしてて? それで何もないとは言わないよねぇ?」

 ちぃちゃんが私の左手の薬指の指輪を指さしてすごくニヤニヤしてる。これはどうあっても聞き出す気だ。

「な、何聞いてるのちぃちゃん!? 美奈ちゃんもいるんだよ!?」

「美奈ちゃんなら、さっきトイレに行ったよ」

「嘘!?」

 美奈ちゃんがいた方を見ると、本当に美奈ちゃんはいなかった。いつの間に移動したの?

「綾奈が真人の笑顔にドキドキしている間に行ったよ。てか、美奈ちゃんが出ていくのに気づかなかったなんて……」

「あぅ……」

 私が真人の笑顔にドキドキしているのもバレてた。

「で? もう一回聞くけど、真人とはどこまで進んだのさ?」

「どこまでも何も、私たちはキスまでしかしてないよ」

「は? マジで?」

 多分言うまで解放してくれないと思った私は、観念して本当のことを話したんだけど、ちぃちゃんは信じられないといった顔をしていた。

「指輪プレゼントしてキス止まりって……何やってんの真人」

「か、風見高校の文化祭でお父さんに言われたことを守ってるんだよ。昨日の夜に真人のベッドに潜り込んで寝てたけど、今朝もキスだけだったもん」

 優しくて誠実な真人だもん。きっとお父さんと交わした約束を忠実に守ってるんだ。だからキス以上の行為はしてこないんだよ。

「ベッドに潜り込んだって……え? 夜這い?」

「ちがっ……くはないかもだけど、違うもん!」

「いやどっちだよ」

 確かにベッドに潜り込む前に、頭をポンポンしたり、頬をつんつんしたり、唇に触れたりしたけど……や、やっぱり夜這いになっちゃうのかな?

「そ、そういうちぃちゃん達はどうなの!?」

 私は何とか話題を逸らせないかと思い、ちぃちゃんに同じ質問を投げかけた。

 なんか、合唱コンクール全国大会の時、旅館で似たようなやり取りをしたのを思い出すなぁ。

「あぁ、うん。……まぁ」

 ちぃちゃんの歯切れが急に悪くなった。こういう時のちぃちゃんの態度は、絶対に何かあると言っているようなものだ。

 ちぃちゃんは顔を赤くして、私のそばに来て耳打ちをした。

「……ごにょごにょ」

「ふえぇええええ!?」

 ちぃちゃんの言葉に、私は驚いて、顔がものすごく熱くなった。

 嘘でしょ!? そんなことまでやったの!? しかもちぃちゃんから……。

 た、確かに清水君は奥手そうだけど、ちぃちゃん、大胆で、すごい。

「ま、まぁ、綾奈もあたしみたいにしないでも、真人がキスより先をしてくれなくて焦れてるなら、自分からしてみるのもいいかもね」

「ひ、引かれないかな?」

「びっくりはすると思うけど、絶対に引かれないって」

「う、うん。……考えてみるね」

 これから宿題をするのに、こんな気持ちになってはダメだと思い、頭を振ったり顔を手であおいだりして熱を逃がして、極力そのことを考えないよう努力しよう。

「ただいま」

 その時、美奈ちゃんがトイレから帰ってきた。もう少し帰ってくるのが早かったら、さっきの会話を聞かれていたかもしれない。

 さすがに中学生に聞かせられる話ではないもんね。

「おかえり美奈ちゃん。さ、宿題やろっか」

 ちぃちゃんはテーブルに置かれたポテチを食べながら言って、教科書とノートを広げた。

 コンコンコン!

 すると、またドアをノックする音が聞こえた。

「入ってきていいよお兄ちゃん」

 美奈ちゃんの言葉を聞き、再び入ってきた真人。その手には大きいお皿と何やら箱を持っていた。

「お菓子持ってきてるならこれに入れなよ。それから……これ、ウエットティッシュだから使って」

 さっきお菓子の袋を見ていたのはこの為だったんだ。これだけの大きさのお皿なら、色んな種類のお菓子を置けるだろうし、ポテチを手で掴むとどうしても油がついちゃうから、それを拭くためにウエットティッシュまで用意してくれるなんて……旦那様の気づかいに胸が熱くなった。

「ありがとう真人。助かるよ」

「どういたしまして。じゃあ俺はリビングにいるから、何かあったら呼んでよ」

「ありがとう真人」

 私は部屋から出ていこうとしている真人にお礼を言って、少し照れた表情で手をひらひらさせた。

「うん」

 それに対し、真人も笑顔で手を振り返してくれた。些細なやり取りだけど、やっぱり嬉しいな。

「でも、お兄ちゃんはなんでリビングに移動したんだろ? 自分の部屋にいたらいいのに」

「多分だけど、あたし達の会話を聞かないためだろうね。あたし達の声量にもよるだろうけど、自分の部屋だとこっちの会話が聞こえてしまうかもしれないから、それでリビングに降りて行ったんだろうさ」

 そんな事まで考えてくれてるなんて……。私はきっと思いつかなかっただろうな。

「やるじゃん真人」

「真人は私の自慢の旦那様だもん」

「私の自慢のお兄ちゃんだから」

 ちぃちゃんの言葉に、私と美奈ちゃんは揃って鼻が高くなり、それから三人で笑い合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る