第192話 千佳がやって来た

 その日の昼食後、綾奈はお出かけ用の服に着替えて玄関で靴を履いていた。どうやら今から千佳さんを迎えに行くようだ。

 今の綾奈の服装は、白いニットのセーターにベージュのコート、下はデニムのショートパンツに黒のタイツだ。やっぱり綾奈はパンツスタイルも似合うな。

 ちなみに午前中は例によって冬休みの宿題を片付けていた。この調子なら明日……いや今日中には終わらせれるだろう。

 綾奈は美奈の部屋で過ごし、同じく冬休みの宿題をやったり、美奈とおしゃべりをしながら美奈の宿題を見てくれていたようだ。

 昼食は綾奈の手作り……ではなく、母さんが出かける前にあらかじめ用意していたのを三人で食べた。綾奈の手料理を食べるのはもう少し後になりそうだ。

「俺も一緒に行くよ」

「大丈夫だよ。そこのT地路まで行くだけだから。だから真人は待っててね」

 そう言って、綾奈は俺に手をひらひらさせて、玄関を開けて外に出た。


 十分ぐらいで綾奈が千佳さんを連れて戻ってきた。

 俺はリビングにいたから、玄関が開く音が聞こえて玄関まで行った。

「た、ただいま」

「お邪魔しまーす」

 綾奈はまだ「ただいま」と言うのに照れているみたいだ。可愛い。

「おかえり綾奈。千佳さんもいらっしゃい」

 千佳さんはわりと大きなカバンを持ってきていた。恐らくあの中に勉強道具が入っているのだろう。

「うん、真人。お邪魔するよ」

「どうぞどうぞ」

 そう言って千佳さんは履いていたニーハイブーツを脱いだ。

 すると、ブーツに隠れていた千佳さんの美脚が顕になったので、俺は脚を見ないように、千佳さんの顔に目を向けた。

 千佳さんも今日はショートパンツを着用していて、綾奈と違うのは、千佳さんのショートパンツにはダメージが入っているところだ。

 元々女性にしては身長が高く、美人でスタイルもモデル並みにいいので、そんな千佳さんの生足は、たわわに実った二つの果実同様、非常に目に毒だ。

 何より、見ていると綾奈と健太郎に悪い。

「真人」

 千佳さんがニヤニヤしながら俺を呼んだ。嫌な予感しかしない。

「な、何?千佳さん」

「あたしの脚、見たいなら別に見てもいいんだよ?」

「なっ!?」

「ふぇ!?」

 思った通り、嫌な予感は的中した。

 それ以前に、何を言ってるんだ千佳さんは!? 普通、彼氏でもない男にそんなことは言わないだろう。

 それに普段の千佳さんなら、脚を見ようとする男にはガンを飛ばすだろうに、どうして俺にはそんな挑発的な言葉を向けるのだろう?

 千佳さんの言葉に、俺の視線は自然とその美脚に引き寄せられていった。

「な、何言ってるのちぃちゃん!? 真人も見ちゃダメ!」

 綾奈は慌てた様子で、自分の両手で俺の両目を塞いだ。

「ち、千佳さん。マジで言ってるの!?」

「え? マジだけど」

 ……マジですか。

「てか、真人は綾奈以外に変な気を起こすことはないし、親友の旦那だから言えるんだよ」

 そういうことか。千佳さんは俺を信頼してるから言ってくれているのか。ただ、それがわかったところでまじまじと見るつもりはないんだけど。

 というか、今さらっと『旦那』と言われてドキッとした。

「そ、それは気持ちだけ受け取っておくよ」

「あはは、あんたならそう言うと思ってたよ」

 俺がどう返答するのかわかったうえで言ったみたいだ。敵わないな。

 そんなやり取りをしていると、ドタドタと美奈が降りてきて、そのまま千佳さんに抱きついた。

「いらっしゃい千佳さん!」

「おっと! うん。来たよ美奈ちゃん」

 千佳さんに抱きつき、谷間に顔を埋める美奈と、それを気にした様子もなく美奈の頭を撫でる千佳さん。

「飲み物用意するから、みんなは先に上がっててよ」

 見てはいけないような気がして、俺は理由をつけてその場からリビングに移動した。

「わかった。ありがとう真人。それじぁあ行こっか美奈ちゃん。綾奈も」

 女性陣は先に二階に上がって、そのまま美奈の部屋に入っていった。

「さて、何を持っていこうかな?」

 俺はどの飲み物を持っていくかを考え、甘いものが好きな綾奈と美奈にはココアを、千佳さんには微糖のコーヒーを作り持って行くことにした。

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