第191話 五人揃って初めての朝食

 二人でリビングに降りると、俺たち以外の三人が既にいて、父さんと美奈は朝食を食べていて、母さんはキッチンに立っていた。

「おはよう」

「おはようございます」

 俺たちは三人に朝の挨拶をすると、二人してキッチンに向かった。

「おはよう。お兄ちゃん、お義姉ちゃん」

「おはよう二人とも」

 美奈と父さんも俺たちに挨拶を返してくれた。

 俺はマグカップをシンクに持っていく為なんだけど、綾奈は?

「おはよう二人とも。綾奈ちゃん、よく眠れた?」

 キッチンへ行くと、母さんも挨拶をしてくれた。

「はい。ぐっすりと眠れました」

「お義姉ちゃん、お兄ちゃんのベッドでぐっすりだったもんね」

 朝食を食べていた美奈からそんな言葉が飛んできた。

「み、美奈ちゃん!」

 綾奈が慌てて美奈を呼んでいるが、一度出てしまった言葉は取り消すことが出来ない。

「真人、あんた綾奈ちゃんに何かした?」

「するわけないだろ!? 俺も目が覚めたら横で綾奈が寝ててびっくりしたんだから」

 母さんは、俺が綾奈を無理やり自分の部屋に連れ込んだのではないかと疑っているみたいだから、即座に否定した。

 そんなことをしたら、綾奈のご両親に申し訳が立たないし、今後お泊まりは許してくれないどころか、最悪別れなければならないかもしれないしな。

 だから俺は、綾奈や綾奈のご両親の嫌がることは絶対にしないと心に誓ってるんだ。

「綾奈ちゃん、本当に何もされなかった?」

 母さんはまだ疑っているらしく、今度は綾奈に事情聴取をしている。なんで俺が容疑者みたいになっているんだ?

「ほ、本当ですよ! 私たち、キスしかしてませんから!」

 綾奈はテンパっているためか、正直に答えてしまった。

「綾奈!? そこは正直に言わないでいいから!」

「ふぇ!?…………あ」

 俺の声で我に返った綾奈は、自分が言った言葉に顔を赤くしてめちゃくちゃ照れていた。

「あらあら、まぁ私は真人がそんなことしないってわかってたけどね」

「わかってたなら言わないでくれませんかねぇ……」

 俺の抗議の声もなんのその。母さんは気にした様子はない。

「ごめんね綾奈ちゃん。ちょっと意地悪なこと言っちゃって」

「そ、それは大丈夫です。……あぅ~」

 綾奈も母さんの発言には気にした様子はなく、先程の自爆でまだ顔が熱いみたいで、手をうちわのようにパタパタさせて顔を扇いでいた。

「それで? 綾奈ちゃんはどうしてキッチンまで来たのかしら?」

 母さんはさっきの話題を終わらせると、俺がさっき思っていたことと同じ質問を綾奈にした。

「そ、その、何かお手伝い出来ることがないかと思いまして」

 ああ、なるほど。だから綾奈もキッチンまで来たのか。

「大丈夫よ綾奈ちゃん。そんなこと気にしないでいいから真人や美奈みたいにくつろいでちょうだい」

 母さんはやんわりと断った。まぁ、テーブルを見ると、既に人数分用意されているので、綾奈が手伝えることはないのだろう。もちろんさっき綾奈に言ったのも本心だろうけど。

「わ、わかりました。でもお手伝い出来ることがあればなんでもしますから、良子さんも遠慮なく言ってください」

 綾奈はそれだけ言うと、母さんに一礼してから食パンを一枚トースターにセットしてから席についた。

 パンが焼けるのを待っている間、美奈や父さんと何やら話しているみたいだ。

「真人、あんた本当に綾奈ちゃんに愛想尽かされないようにしなさいよ」

「するわけないだろそんなこと。まぁ、気をつけるけどさ」

 母さんは俺にだけ聞こえる声量で釘を刺してきたので、俺はそれを聞き入れた。

 綾奈が俺に愛想を尽かすことはないと信じてるが、俺だってそれに甘えるつもりは毛頭ない。綾奈に任せっきりにするのではなく、俺に出来ることがあれば綾奈を手伝い支える。夫婦ってそういうものだと思ってるから。

「わかってたけどね」

「なら言わないでよ。こうやって言葉にするの、けっこう恥ずかしいんだから」

「ふふっ」

 俺の返答に、母さんは笑って、それからキッチンで作業を再開した。

 俺はココアを作り、それを綾奈に持っていった。

「ココアでよかった?」

「うん。ごめんねいれてもらって」

「気にしないでよ」

「うん。ありがとう真人」

 俺たちが笑い合っていると、ちょうどトースターから「チーン!」と音が聞こえた。どうやら綾奈の食パンが焼けたようだ。

 綾奈がそれを持って再び席に戻るのを確認すると、俺も食パンを取り出してトースターにセットした。

「あら? 珍しいわね。あんたが朝にパンを食べるなんて」

 母さんが言うように、俺は朝はお米派だ。

「たまにはいいかなって」

「どうせ綾奈ちゃんに合わせようとしたんでしょ?」

「…………」

 母さんに本音を当てられてしまい黙ってしまう俺。

 そんな俺を見て、母さんはくすくすと笑っていた。

 俺はホットカフェオレを作り、焼けたパンにイチゴジャムをつけて食べた。

 そんな俺の様子を、綾奈は興味深そうに見ていた。多分、俺の好みを把握しようとしているんだろうな。

 この日の朝食は、どこか落ち着かない感じで食べた。

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