第189話 目覚める真人と、幸せな夢を見る綾奈
「…………ん?」
綾奈がうちに泊まりに来て一夜明けた十二月二十七日の早朝。
だんだんと意識が覚醒していった俺は、何故か片腕が痺れていることに気づいた。
痺れもあるし、何かが腕に乗っかっているみたいな感じもある。
そういえば昨夜の夢で、何故か俺がFPSのゲームのキャラクターになっていて、相手プレイヤーが俺の腕に執拗にスタンガンを当ててきていたな。
スタンガンで痺れていた俺を、他の敵プレイヤーにアサルトライフルで銃撃されて、リスポーンしてもその繰り返しで、やられている身としては全然面白くない内容の夢だった。何故FPSなのにスタンガンなのかはまったくの謎。
そんなことはどうでもいいとして、俺はゆっくりと目を開けた。
すると、何故か綾奈が俺の腕枕で幸せそうな顔で寝ていた。
「かわっ……」
無意識で可愛いと言いそうになり、慌てて口を手で塞いだ。
あっぶねー。もう少しで綾奈を起こしてしまうところだった。
綾奈はすぅすぅと寝息を立てていて、本当に安心しきっている。
目が覚めたら愛する婚約者の寝顔が見られるとか、幸せでしかないだろ。
「にへへ~。ましゃと~、しゅき~♡」
おまけにこの寝言である。一体どんな夢を見ているのか。
ふにゃっとした笑顔にさっきの言葉、非常に幸せで眼福なんだけど、非常に心臓に悪い。
寝起きなのに心臓がバクバクで朝から働きすぎだろ。
枕元に置いてあったスマホで時間を確認すると、六時半をすぎたところだった。
もう少ししたら日が昇るな
まだ無理に綾奈を起こすような時間じゃないし、俺ももう少し綾奈の寝顔を見ていたいから、まだしばらくこの幸せな時間を堪能しようと思ったら、俺の部屋のドアが開いた。
「っ!」
俺は驚きドアをみる。廊下の電気の灯りが目に入り、眩しくて目を細める。
目が慣れて、ドアを開けた人物を確認すると美奈だった。本当にノックをしないなこいつは。
それから美奈はベッドで寝ている俺たちを見る。
これ、もしかしてだけど、俺が綾奈をベッドに連れ込んだと思われているのではないか?
まったく身に覚えがないし、誤解なのだが、何とかその誤解を解かなければ。
だがこの状況では声が出せないので、俺は空いている腕を上げて、否定するように手をぶんぶんと振った。
「……」
果たして美奈はどう思うのか、内心めっちゃそわそわしていたのだが、美奈はこくりと頷き、何故かサムズアップしてドアを閉めた。美奈がどう解釈したのかわっかんねー!
「ましゃと~、ダメだよ~……へんにゃもの、ひろってきちゃ~」
「…………」
綾奈さんや、夢の中の俺は犬かなにかですか?
夢の中でスキンシップをしているのかと思いきや、綾奈の夢の中で犬と化している俺が、散歩中にそこら辺に落ちていた物を咥えて、飼い主である綾奈に嬉しそうに見せているのだろうか。
「私もだいしゅきだよ~♡」
夢の中の犬となっている俺に向けて言ったセリフなのはわかっているのだけど、やっぱり自分が言われていると思いドキドキする。
「俺も、大好きだよ」
あまりにも可愛い綾奈に、気持ちのセーブが効かずに、いつも思っていることを口にした。
「にへへ~♡」
すると、綾奈はさらにふにゃっとした笑顔になり、俺に密着して、顔を俺の胸に擦り付けてきた。
「っ!」
さらに、俺の足の上に自分の足を乗せてきた。さっきまで飼い主だったのに今度は猫にでもなったのだろうか?
ただこの体勢は本当にマズい。綾奈の柔らかな身体に、女性特有のいい匂いのダブルパンチに、俺の理性は崩落寸前だ。
こんな朝っぱらから、そして寝ている綾奈に変なことは出来ない。
だから俺は、申し訳ないけど綾奈を起こすことにした。
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