第188話 深夜に目が覚めた綾奈は……

 今は深夜。

 私は美奈ちゃんの部屋に用意された布団を使って寝ていたんだけど、お花を摘みに行きたくて目が覚めてしまった。

 私は美奈ちゃんを起こさないよう、ゆっくりと布団から出た。

 ベッドで寝ている美奈ちゃんからは、すぅすぅと寝息が聞こえている。

 さ、寒い~~!

 深夜なので、気温が本当に低い。さっきまで布団にくるまって温まっていたから余計に寒く感じる。早く戻って布団に入らないと、風邪ひいちゃうよ。

 私は忍び足で歩き、ゆっくりと音を立てないように部屋のドアを開けそのままお花を摘んだ。

 スリッパだと歩く音が大きいから寝るときに履いていたくつ下で出てきたんだけど、フローリングから感じる冷気で足の裏がすごく冷える。

 私は静かに、それでいて早足で階段をかけ上がり、美奈ちゃんの部屋のドアに手をかけようとした瞬間、真人の部屋のドアを見てしまい、動きを止めた。

 隣の部屋で真人も寝ているんだよね。

 私は頭の中で真人の寝顔を想像する。……どうしよう、すごくかわいい。

 想像でこれだけかわいい寝顔をしているんだから、実際はもっとかわいいんだろうなぁ……。

 身体がゾクゾクってしたけど、きっと寒いからだよ。うん。他意はない。

 あ、でも、私は以前に真人の寝顔を見たことがあるんだ。

 それは、真人が熱を出してしまった日。

 その日、私は合唱コンクール全国大会から帰ってきて、真人が熱を出したと美奈ちゃんから聞いて、真人の看病をする為に急いでここに来た。

 最初見た時はすごく苦しそうにしていたんだけど、一度起きて、また寝た時に見た真人の寝顔は、とても穏やかで、病人に対して不謹慎かもしれないけど、かわいいと思って、それを口にも出した。

 今、真人はどんな寝顔をしているんだろう。すごく見たい。

 それから私は、さっきまで真人の部屋でしていた事を思い出し、自分の唇に触れた。

 さっきまで、すごく長い時間、真人とキスをしていた。

 あんなに長い時間キスをしたのは初めてで、思い出したら顔が熱くなった。

 夕方から真人とキスをしたい衝動にかられて、それをずっと我慢してたんだけど、ドライヤーで真人の髪を乾かし終えた時に我慢の限界が来て、私にお礼を言うために振り向いた真人の唇を強引に奪った。

 そ、それに、私はあの時、真人を押し倒そうとしていたんだよね……。

 自分でもすごく大胆な事をしてしまったと思ってるけど、あの時は私も夢中で、真人ともっともっとキスをしたいってことしか頭になかった。

 それから、私はなんであんなことを聞いてしまったんだろう……!?

 舌を入れていい?なんて、すごくえっちな女の子みたい……!

 それを聞いた瞬間、真人から強引にキスをされて、し、舌も入れられて……本当に凄かった。

 真人が私を求めてきてくれるのが凄く嬉しくて、私ももっと真人とキスをしたくて、お互い時間を忘れて夢中でキスをしていた。凄く幸せな時間だった。

 ど、どうしよう。……さっきあれだけキスをしたのに、今またキスをしたくてたまらない。

 真人とのキスにどっぷりとハマっている。

 だ、ダメだよ。真人はもう寝てるし、今行ったら起こしてしまうかもしれないんだから……。

 で、でも、寝顔を見るだけなら……い、いいよね?

 私は美奈ちゃんの部屋には入らず、真人の部屋の前に行き、ドアをゆっくり開けた。

 そして起こさないよう慎重に近づいて行き、真人が寝ているベッドの前に行き、ペタンと床に座った。

 真人は身体を横向きにしていて、今は私のいる方を向いて、安らかな寝息を立てている。

 実際に見た真人の寝顔は……本当にかわいいよぉ!

 こんなのずっと見てられるし、なんならその頭に敷いている枕を私の膝と交換してそのかわいい寝顔を上から見下ろしたい。

 私はゆっくりと手を伸ばし、真人の髪に触れた。

 数時間前にドライヤーで乾かしたからまだふわふわしている。触っていて気持ちいい。

 それから手を真人の頬に移動させる。……柔らかい。

 試しに真人の頬を指でツンツンしてみる。

「ん~」

 それに反応して、声を出してもぞもぞと動いた。

 かわいすぎる! 起きる気配はなさそうで一安心。

 それから私は真人の唇に目線を移動してドキッとする。

 顔は熱く、心臓の鼓動も早くなりながら、私は親指の腹で真人の下唇に触れた。

 そしてゆっくりと顔を近づけていって……。

「っ!」

 でもすぐに慌てて指を離す。

 だ、だからダメだよ! 寝ている真人にキスするなんて。

 こ、これじゃあ、私が夜這いをしているみたいじゃない。

 でも、ここに来ている時点で夜這いみたいなものなのかな?

 ここでまた数時間前の出来事を思い出し、またドキドキしてしまって、でも少ししてテンションが下がった。

 数時間前、私は真人といっぱいキスをした。

 でも、言ってしまえばそれだけだった。

 真人は決してキスより先の事はしてこない。

 多分だけど、キスより先の事をしてしまうと、私がまた怖くなってそれを拒否してしまうのではないかと思ってしてこないのではないかと考えてしまう。

 そう思われても無理はないよね。キスだって最初は二回も拒んでしまったんだもの。

 真人はゆっくりと時間をかけて、次のステップに行こうとしてるのかもしれない。でも、私は真人になら何をされてもいいと思ってるし、その全てを受け入れる覚悟も既に出来ている。

 もちろんお父さんと約束している範囲内で、だけどね。

 真人、私たちは仮とはいえ夫婦なんだよ。だから、真人がしたいと思っている事を遠慮しないで。

 私はそこで考えをストップする。

「……」

 い、今の真人の体勢、腕枕できてしまうのでは!?

 真人は依然として、身体を私の方に向けて寝ているし、布団から手がはみ出ている。

 二学期の期末試験の後、真人に腕枕をしてもらった時の事を思い出し、またあの腕枕を味わいたいと思ってしまい、私はゆっくりと掛け布団を持ち上げ、慎重に真人のベッドに潜った。幸い、真人は熟睡しているのか、起きる気配はなかった。

「~~~~~~!」

 真人の寝息が私の額に当たるほど近い。

 腕枕の感触がとても心地いい。

 凄く密着していて、掛け布団もあるせいか、真人に包まれている感覚があって、温かくて幸せ~。

 ち、ちょっとだけなら、寝てもいいよね?

 私たち、仮とはいえ夫婦だもん。

 私は真人に包まれるような幸せを噛みしめながら目を閉じた。

 その結果、朝まで目が覚めることがなかった。

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