第186話 綾奈からいきなりの……

 程なくして、ドライヤーから発せられていた音と風が止んで、綾奈がドライヤーを床に置いた。どうやら乾かし終えたようだ。

「綾奈、どうもありがんんっ!?」

 俺は綾奈の方を向いて、お礼を言おうとしたんだけど、俺の言葉は途中で遮られた。

 俺が振り向いたタイミングで綾奈がキスをしてきたからだ。

 確かにキスをしたいと思ったけど、まさか綾奈からしてくるなんて。綾奈も俺とキスしたかったってことでいいのかな?

 二日ぶりの綾奈とのキス。綾奈の唇の感触はやはり柔らかい。

「ん……んん♡」

 それに今日は、綾奈の方からついばむようなキスをしてくる。今日の綾奈は積極的だ。

 でも……あれ?なんか、長くね?

 体感的にもう一分はとうに過ぎているんだけど、綾奈が唇を離す気配はない。

 それどころか、俺を押し倒そうとしているのか、俺の肩に置いている綾奈の両手に力が入る。

「んん……!」

 ただ、綾奈さん。

 この体勢で押し倒そうとすると、俺は前屈みになるんですよ。

 それにローテーブルにぶつかりそうになるし、そうなるとマグカップが倒れてミルクとココアがこぼれて大惨事になるから、キスするにしても体勢を変えさせてくれませんかね?

「……ぷはぁ!」

 俺は半ば無理やりに綾奈から唇を離した。

「はぁ……はぁ……」

 綾奈を見ると、頬は真っ赤で、肩で息をしている。そして少し汗をかいているみたいだ。

「綾奈、どうしたの? なんかいつもより積極的だけど」

「う、うん。……今日ずっと、真人とキスしたいって思ってて、それで我慢出来なくて……」

 な、なるほど。

 そう言って、綾奈は後ろから俺を抱きしめてきた。

 両腕は首元にあり、俺の右肩に綾奈は顎を置き、背中には綾奈の決して小さくない果実の感触が伝わってきて、心臓がめっちゃドキドキしてる。

「ち、ちなみにだけど、いつからキスしたいと思ってたの?」

 俺は平常心を装い、綾奈に質問する。

「そ、それは……」

 綾奈は顔を逸らしてもにょもにょと口ごもっている。

 その間も綾奈の両手は俺の首元に置かれている。俺は未だに首だけを後ろに向けていて、その体勢がしんどくなってきたので、綾奈が口ごもっている間、綾奈の手を肩から離し、身体ごと綾奈に向けた。

「は、晴れ着の話をしている時から……です」

「……マジ?」

 ……え? そんな前から!?

 ということは、六時間以上も我慢してたってことになるぞ。

「晴れ着を着てないのに、真人が褒めてくれて、嬉しくて抱きついたけど、その時にキスしたかったけどお母さんいたし、それからずっと二人きりになれなくて……、この家に来た時も、荷解きもあったし、美奈ちゃんとお話してたから真人の部屋に来れなくて……」

「なら、俺が風呂から出た時はなぜすぐにキスしなかったの?」

「あぅ……そ、それは、いきなりキスしちゃったら、真人にはしたない子だと思われるし、ドライヤーで真人の髪を乾かしたかったのも本当で、先にキスしちゃったら、その事そっちのけになりそうだったから……」

 聞けば聞くほど可愛らしい理由に心臓がすごくドキドキしてくる。

 そんな理由を聞かされて、キスしたくならない奴はいないだろう。

「じゃあ、もっとしよっか?」

「う、うんっ!……そ、それでね」

 綾奈は俺の耳に顔を近づけてきた。

「し、舌、入れていい?」

「っ!」

 それを聞いた瞬間、俺の理性にヒビが入った。

「んん!?……ちゅっ」

 俺は返事はせず、綾奈の両方の二の腕を掴み、強引に唇を奪い、舌を入れた。

 それから時間を忘れてキスをし続けた。

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