第184話 もっとお互いを知りたい二人

 自宅に戻り、各々好きなように過ごして今は夜の十時だ。

 俺は風呂から出て、ホットミルクを持って階段を上っていた。

 帰りの車でも美奈は綾奈にべったりで、後部座席で美奈が綾奈の隣を独占していた。

 綾奈のお泊まりは始まったばかりだ。そんな事でいちいち騒ぐようなことはしない。これからいくらでも二人きりになれるチャンスはあるんだから。

 そう思いながら、俺は自室の扉を開けた。

「おかえりなさい真人」

 自室では綾奈がいた。ローテーブル付近にちょこんと座っている。

 既にお風呂を済ませていた為、パジャマ姿の綾奈がそこにいた。

 ピンク色で、猫のシルエットがプリントされている可愛いパジャマだ。本当に猫が好きなんだな。

 普段見ることの出来ない姿の綾奈に、俺の心臓が跳ねた。

「ありがとう。てか、こっち来てたんだ」

「うん。真人とお話したくて」

 嬉しいことを言ってくれる綾奈に胸が熱くなる。

 ローテーブルを見ると、綾奈は何の飲み物も持ってきてはいないみたいだった。

 どれくらい話をするかわからないが、綾奈の飲み物を用意しなければという気持ちが働いた。

「ちょっと待っててね」

「? うん」

 俺はホットミルクが入ったマグカップをローテーブルに置き、自室を出て再びリビングに向かった。

「うん。ココアにするか」

 俺は、自分のと同じくらいの大きさのマグカップを取り出し、ホットココアをいれて自室に戻った。ココアはこの前のカラオケデートでも飲んでいたから、苦手ということはないだろう。夜も遅いし、甘さ控えめでカロリーが少ないココアを選んだ。

「はい、どうぞ」

 ココアをいれ、自室に戻った俺は、綾奈の近くにホットココアが入ったマグカップを置いた。

「わぁ、ありがとう真人」

 満面の笑みでお礼を言ってきた綾奈にまた心臓が跳ねる。

「どういたしまして」

 俺は綾奈のすぐ隣に腰掛け、どちらともなく手を握り指を絡め合った。

「お泊まり初日はどうだった?」

「最初はやっぱり緊張したけど、今はもうだいぶリラックスしてるよ。雄一さんも良子さんも優しくしてくれるし、美奈ちゃんは甘えてきてくれるし、何より、真人がいるから」

「そ、そっか」

 綾奈が笑顔で言ってくれるからすごくドキドキする。付き合って二ヶ月以上が経過したけど、この可愛すぎる婚約者の笑顔は全然慣れない。いや、慣れるものではないか。

 俺は心を落ち着けるためにホットミルクを一口飲んだ。

「あちっ!」

 ホットミルクはまだまだ熱く、猫舌の俺にはまだ少々飲むのは難しい温度だった。

「大丈夫?」

「うん。へーきへーき」

 心配して顔を近づけてくる綾奈に大丈夫だと伝える。実際はある意味で大丈夫ではないけど。

「真人って猫舌なんだね」

「うん。昔から熱いのは苦手で」

「確かに、私の家でお鍋を食べた時も、ふーふーしてから食べてたもんね」

 綾奈はくすくすと微笑を浮かべている。ふーふーって言葉を使う綾奈が可愛い。

「変だった?」

「ううん、全然。ただ、かわいいなって」

「可愛いかな?」

 綾奈はよく俺のことを「かわいい」って言ってくれる。それは褒め言葉とわかっているけど、綾奈の俺に対する可愛いの判断基準が甘すぎるように思う。

「すごくかわいい。それに、また真人のことを知れたし」

「そう、だね」

「これからも真人のこと、もっと教えてね」

「わ、わかった。綾奈のことも、もっと教えてね」

「もちろん♡ 真人にもっともっと私を知ってほしいもん」

「お、おう」

 綾奈の顔が近くにあるから、照れくさくなり、視線を綾奈から外し、返答にどもってしまった。

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