第182話 いざ、回転寿司屋へ

「ただいまー」

 午後六時半、父さんが仕事から帰ってきた。いつもはまだ帰ってきていない時間帯なのだが、今日から綾奈が来るし、回転寿司に行くから早く帰ってきた。

 ちなみに俺は今リビングにいるけど、俺たちが家に帰ってきてから、俺はずっと自室で宿題を片付けていた。綾奈も美奈の部屋にずっといたと思う。

 そう。今日はまだ二人きりで過ごしていないのだ。

 もちろん二人きりになりたくないわけではない。

 なんというか、綾奈が泊まりに来ているこの状況と、母さんと美奈がいるから変に意識してしまってなかなか二人きりになれないでいた。相変わらずのヘタレだ。

 綾奈は今まで何をして過ごしたんだろうな?

「おかえり父さん」

「ただいま。綾奈さん、もう来てるのか?」

「来てるよ」

 俺が綾奈を呼びに行こうとしたら、二階から誰かが降りてくる音が聞こえた。見ると綾奈だった。

「雄一さん、おかえりなさい。それと、今日からお世話になります」

 そう言うと、綾奈は父さんに深々とお辞儀をした。この礼儀正しいところも綾奈らしくて好きだ。

「ただいま綾奈さん。自分の家だと思ってくつろいでね」

「は、はい!」

 綾奈の返事に父さんは笑顔になり、手洗いとうがいを済ませて自室に向かって行った。これから回転寿司屋に行くから着替えて来るみたいだ。

 程なくして私服に着替えてきた父さんと、着替えの最中にリビングに降りてきた美奈も含め、五人で父さんの車に乗り込んだ。

 父さんの車には普通車なので、母さんの車より広い。

 運転席に父さん、助手席に母さん。後部座席に俺、綾奈、美奈と、俺たち兄妹で綾奈を挟むかたちで座った。

 俺と綾奈はどちらともなく指を絡めて手を繋ぎ、お互いを見て笑いあった。何気ないやり取りだけどすごく心地よくて幸せだ。


 父さんの車で揺られること約二十分、俺たちは回転寿司屋にやってきた。

「ここに来るのも本当に久しぶりだな」

「だねー」

 家から少し距離があるのと、中筋家の全員がお寿司めっちゃ好きって人がいないから、外食の候補にあがりにくいのもあって、回転寿司はあまり利用してはいなかった。

「綾奈はよく来たりする?」

「私もあんまり来ないかな。だから今日ちょっとわくわくしてるんだ」

「俺も」

「一緒だね」

 そんな会話をして俺たちはテーブル席に着いた。

 並びとしては、通路側から俺、美奈、綾奈。そして反対側に父さんと母さんが座っている。

 最初、綾奈が自分から奥に座り、その後に俺も座ろうとしたら美奈に割り込まれた。どうやら今日は綾奈の隣は譲りたくないらしい。

 しかし、綾奈が自分から最初に座りに行くのは珍しいな。綾奈の性格上、他の人を先に座らせて最後に自分が座ると思ったけど……。

 まさか、俺が食べたいネタを取るつもりで最初に座ったのかな? いや、考えすぎか。

「真人、私が取るから食べたいのがあったら遠慮なく言ってね」

「わかった。ありがとう綾奈」

 俺の予想、当たってたわ。

 この満面の笑みが眩しい。

「お義姉ちゃん、私のも取ってくれる?」

「もちろん」

「やったぁ!ありがとうお義姉ちゃん」

 美奈もここぞとばかりに綾奈に甘えようとしている。

 元々綾奈が大好きで、冬休みの間はずっと一緒にいれるからその嬉しさを言葉で、そして身体で表現している。

 でもここでふと思う。あれ? 綾奈の歓迎会を込めてここに来てるんだよな?と。

 それなのに綾奈にばっかりネタを取ってもらってもいいのだろうか?

 でも綾奈も取りたそうにしてるし、俺がここで指摘して水を差してしまうのも違う気がするので黙っておこう。

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