第181話 綾奈、中筋家へ

 車に戻ると、母さんと美奈が既に待っていた。

「あー、やっと来た」

 どうやら美奈は待ちくたびれてしまったようだ。

「ごめんな二人とも」

 俺はトランクを開け、綾奈のキャリーケースを入れながら二人に謝罪をした。

 母さんは当然ながら運転席。そして美奈は後部座席に座っていた。

「お義姉ちゃん、ここ」

 そう言って、美奈は自分の隣をぽんぽんと叩いた。どうやら綾奈に隣に座ってほしいようだ。

 そんな美奈の仕草に、綾奈は笑顔で美奈が座っている反対側のドアを開け、美奈の隣に座った。

「よろしくね美奈ちゃん。良子さん、お願いします」

「いいのよ綾奈ちゃん、そんなに気を使わなくても」

 母さんの車は軽だけどけっこう大きい車だから、後ろに三人くらい余裕で座れるのだが、美奈は綾奈が乗り込むと、綾奈にぴったりとくっつくように移動した。美奈は満面の笑みだ。

 俺は後ろから二人のやり取りを見て、微笑ましい気持ちになりながらトランクを閉め、助手席に座った。


「そうだわ。綾奈ちゃん」

 車を発進させた直後、母さんが綾奈の名前を呼んだ。

「はい」

「今日の夕食なんだけど、綾奈ちゃんの歓迎会を込めて回転寿司に行こうと思うのだけど、いいかしら?」

 実は数日前から今日の夕食は回転寿司にしようと家族で決められていた。だが、最終的な決定権はもちろん綾奈にあるわけで、もし綾奈が難色を示したら普通に家で食べるか、他のお店に行こうという案が複数用意されている。

「いえ、そんな……私の為に」

 綾奈は寿司が苦手ではないけど、性格上やっぱり遠慮しているみたいだ。

「遠慮しないで。私たちは家族同然……いえ、将来本当に家族になるんだから」

 確かにそうなんだけど、親にそう言われるとなんか照れるな。

「そうだよお義姉ちゃん。一緒に行こうよ」

 美奈が笑顔で綾奈に言う。綾奈は抗うことは出来ないだろう。

「……わかった。行こうか美奈ちゃん。良子さんも、すみません」

「いいのよ綾奈ちゃん」

「やったぁ!」

 こうして晩御飯は回転寿司に決定した。


 程なくして俺の家に到着。

 俺は綾奈のキャリーケースをトランクから出してそのまま家の中に入る。

 美奈はまだ綾奈にべったりで車から出ても手を繋いでいた。

「ただいま~」

 美奈は上機嫌で帰宅の挨拶をした。

「お、お邪魔します」

 続いて綾奈が少し遠慮ぎみに入ってきた。

「綾奈ちゃん」

 母さんが綾奈を呼んだ。俺はなぜ呼んだのかなんとなく察していた。

「は、はい」

「少なくとも冬休み中は、ここが綾奈ちゃんの家なのだから、家に帰ってきたらなんて言うのかしら?」

「あ……た、ただいま」

 母さんの指摘に、綾奈は照れながらも「ただいま」と言った。

「はい、おかえりなさい。綾奈ちゃん」

「おかえりなさいお義姉ちゃん」

「おかえり、綾奈」

 俺たちは笑顔で綾奈に「おかえり」を言うと、綾奈は目に涙を浮かべながら満面の笑みを俺たちに見せてくれた。


 玄関でスリッパに履き替え、綾奈のキャリーケースを階段前に置いて、まずは手洗いとうがいを済ませた。

「あぁ、そうだわ。綾奈ちゃん」

「はい?」

 綾奈も手洗いとうがいを終え、二階に上がろうかというタイミングで、母さんが綾奈を呼んだ。

「綾奈ちゃんのお茶碗とお箸はこれだから、ここにいる間はこれを使ってね」

 そう言って母さんが見せてきたのは、ピンクのラインが入った少し小さめのお茶碗と、先端から真ん中辺りまでは白く、持つところはピンクになっているお箸だった。あれ?このお箸って……。

「このお箸、真人のと色違いよ」

「へ!?」

 綾奈が驚きの声を上げた。

 そうだ。俺のお箸も綾奈のそれと一緒のデザインだ。ちなみに俺のは先端から真ん中辺りまでは黒で、持つところは青だ。

「真人と、おそろい……」

 綾奈は小さくつぶやき、俺は照れくさくて顔を逸らし、右手の甲で口を隠した。

「えへへ……♡」

 綾奈も照れているのか、頬を赤くしながらも嬉しいらしく、緩みきった顔に両手を頬にあてていた。

 なんか、同棲を始めたばかりのカップルみたいな感覚だ。

……いや、冬休みの間はひとつ屋根の下で暮らすのだから、今の俺たちはそれだったわ。

「おそろい、増えたね」

「そうだね」

 俺たちは互いに見つめ合い、それぞれのペンダントを持って見せた。

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