第180話 元日は……
「じゃあお母さん、いってきます」
「いってらっしゃい。真人君、綾奈のこと、お願いね」
「わかりました」
そんなこんなで、挨拶と明奈さんのテンションが一段落し、俺の家に帰ろうとした。母さんと美奈は一足先に車に乗り込んでいる。
「あ、そうだわ。綾奈」
車に向かおうとしたところで、明奈さんが何か思い出したように綾奈を呼んだ。
「なに?お母さん」
「元日は真人君と初詣に行くのよね?」
「うん。そのつもりだよ」
初詣。うちから少し離れた所に神社があるので、ここら辺に住んでいる人は、その神社に初詣に行く。
だが俺は初詣にはほとんど行ったことがなかった。理由は怠惰な生活を送っていたことからの出不精で、単純にめんどくさかったからだ。
だが来年元日の初詣は綾奈と一緒に行くつもりでいた。特に二人で決めていたわけではないけど、なんとなく行くんだろうなって予感はあった。
「なら、元日の午前中、なるべく早い時間に一度うちに帰ってきなさい」
「「え?」」
明奈さんの言葉に、俺と綾奈は揃って声を出した。初詣の前に何かすることがあるのだろうか?
「どうして?」
綾奈も明奈さんの意図がわからないみたいで、首を傾げながら明奈さんに聞いていた。
綾奈から返ってきた言葉を聞いた明奈さんは、少し驚いた表情をしたかと思ったら、今度はニヤニヤした表情になった。
「あら? 綾奈は真人君に見せたくないの? 晴れ着姿」
「っ!」
「へ?」
俺は驚いて息をのみ、綾奈は素っ頓狂な声を上げていた。
晴れ着……確かに初詣に晴れ着を着る女の人がいると聞くし、ソシャゲのガチャでも、その時期になると晴れ着を着たキャラが追加されたりもする。
確か、もうすぐ晴れ着をまとったキャラのガチャが来るゲームもあるな……って、え? 綾奈の晴れ着姿が見られる?マジで!?
俺は脳内で晴れ着を着た綾奈を想像する。
「晴れ着、あるの?」
「あるわよ。だから、なるべく早く帰ってきてね」
おそらく気付けに時間がかかるからだろう。確かに俺もそんなイメージはある。
「真人は、私の晴れ着姿、見たい?」
綾奈が俺の袖を掴み、上目遣いで聞いてきた。その質問に対する答えは一つだ。
「……綺麗だ」
「ふぇ!?」
おっと、さっき綾奈の晴れ着姿を想像してしまったから、ついそれを想像して言ってしまった。
「ま、真人!? 私、まだ着てないよ!?」
「ごめんごめん。でもどうやっても綺麗な姿しか想像出来ないからさ」
「あ、あぅ……」
綾奈が頬を真っ赤にしながら俯いてしまった。そんな照れた表情も可愛い。
「じ、実際に着たときも、同じように言ってくれる?」
綾奈がまた上目遣いで言ってきた。けっこう見てきたつもりだけど、破壊力抜群だから何回みてもドキッとする。
「いや~それは無理だよ」
「……え?」
「だって、実際に見たら絶対にさっき以上のテンションで「綺麗」って言ってしまうと思うから」
想像しただけで無意識に「綺麗」という言葉が出てくるのだから、実際に見てしまったらどうリアクションするのか自分でもわからない。ただ、さっき以上に心のこもった感想を言うのは間違いない。
「え、えへへ~♡」
綾奈は嬉しいのか、顔を赤くしながらも、俺の右腕に抱きついてきた。
俺はドキリとしながらも、鼻を鳴らして笑顔になり、空いている左手で綾奈の頭を撫でた。
綾奈はトロンとした表情で俺を見ている。
「あらあら」
明奈さんは微笑ましい表情で俺たちを見ていた。というか、冷静になって考えたら、彼女の母親の前でイチャつくのってなかなか恥ずかしいな。自分の両親の前でするとさらに恥ずかしさが上乗せされそうだ。……うん。家の中でイチャつくのは二人きりの時だけにしよう。
「引き止めておいてなんだけど、そろそろ行かないと良子さんと美奈ちゃんが待ちくたびれちゃうわよ」
あ、そうだ。二人のこと忘れてた。
「そ、そうですね。じゃあ明奈さん、これで失礼します」
「いってきますお母さん」
俺は一礼し、綾奈は手を振って明奈さんに背を向けた。
俺は綾奈と手をつなぎ、そして綾奈のキャリーケースを持って車まで向かった。
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