第178話 綾奈の家へ向かう準備

 美奈の部屋の掃除を終え、美奈から借りた布団の掃除器具で自分のベッドを綺麗にし、そこからは昨日同様、冬休みの宿題を進めた。

 お昼休憩をはさんだが、大体四時間以上宿題をやっていた。おかげで冬休みの宿題は、全体の半分以上が片づいていた。

 去年……いや、一昨年には考えられなかった事だ。俺がこんなにも長い時間勉強机に座って宿題をするなんて。

 いつも長期の休みが終わるギリギリに宿題をやっていたのが懐かしい。

 時計を見ると三時半を回っていた。外は太陽が傾きだしていた。

「そろそろ準備するか」

 綾奈を迎えに行くため、俺は椅子から立ち上がり、背伸びをしてからクローゼットを開けた。

 その中から適当な服を選んで着替えた。いや、適当といっても母さんや美奈にダメ出しをされず、綾奈や明奈さんに変と思われない服を選んだ。言ってしまえば白のロングTシャツに黒のチノパンのシンプルな装いだ。

 綾奈からクリスマスプレゼントで貰ったペンダントは、風呂に入る時と寝る時以外は身につけているが、服の中に入れた状態だった。けど今は服の上から見えるように身につけている。ちゃんと付けているところを見せて、綾奈に喜んでもらうためだ。

 そこにコートを羽織り、準備完了。

 リビングに降りる時、美奈に「そろそろ行くぞ」と廊下から声をかけた。

 リビングに入ると、既に母さんがいて、ちょっといい所で買ったであろう服を着ていた。これから綾奈の家に挨拶に行くからだろう。

 テーブルには何やら紙袋が置かれていた。恐らく明奈さんに渡すであろう菓子折りだ。

「あら?あんたそれ……」

 母さんはそう言いながら、自分の胸の辺りを指さした。

「これ?綾奈からのクリスマスプレゼントだよ」

「変わった形のペンダントね」

「二つで一つのペンダントだからね」

「二つで一つ?……あぁ、そういうこと」

 俺の言葉で納得したの様な表情をする母さん。

 まぁ、これだけ見たら確かに不思議な形をしたペンダントだよな。

「美奈遅いわね」

「降りる時に声をかけたからそろそろ美奈も来ると思うよ」

 そう言った直後に、階段から足音が聞こえた。

 美奈がリビングに入ってきた。美奈も普段着る私服よりオシャレな感じの服を着ていた。

「お兄ちゃんがペンダントしてる!」

 美奈が俺を指さして言ってきた。俺だからいいが、他の人を指さすのはやめなよ?

 このペンダントのことを説明すると、美奈は納得していたけどちょっと不満げだった。

「昨日教えてくれてもよかったじゃん」

 昨日はずっと服の中に入れていたから美奈も母さんもこのペンダントの存在に気づくことはなかった。

 多分教えたら美奈はニヤニヤしながらイジってきそうだったし、あと単純に照れくさかったから言わないでおいた。

「まぁいいじゃん。ほら、綾奈の家に行こう」

 半ば無理矢理話を終わらして、俺は美奈の背中を押すようにして玄関まで行った。

 靴を履き、外に出たところで、俺は綾奈に【今から向かうよ】と一言メッセージと共に、「待っててね」の文字が入った犬のスタンプを送った。

 車の後部座席に乗り込んだタイミングでスマホが震えたので、確認すると綾奈から【待ってます。気をつけて来てね】のメッセージと、「早く来てね♡」の文字が入った猫のスタンプが送られてきた。

 それを見た俺は鼻を鳴らし口角を上げた。さらにその俺の表情を見た美奈が生温かい目で俺を見ていた。

 母さんも車に乗り、いよいよ綾奈の家に向けて出発した。

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