第177話 美奈の部屋の片付け②

 一夜明け、十二月二十六日。

 俺はまだ夜が開けきってない時間帯に目が覚めた。

 スマホで時刻を確認する。ディスプレイが光り、その眩しさから目を瞑ってしまう。

 目を開け時刻を見ると、早朝の六時過ぎだ。いつもより早い時間に目が覚めたな。

 今日からいよいよ綾奈がうちに泊まりに来るんだ。それが楽しみで、いつもより早くに目が覚めたんだろうな。

 昨日も熟睡するのにかなりの時間がかかってしまった。おかげで軽い寝不足だ。

 二度寝をしようかと思ったけど、このまま起きることにした。

 スマホでSNSのチェックをし、ソシャゲのログインボーナスを受け取る。

 その後は動画を見ていたんだけど、いつの間にか二度寝をしてしまい、気が付いたら八時を過ぎていた。

 リビングに降り、用意されていた朝食を食べていたら、美奈もリビングに降りてきた。

 美奈は寝起きではなく、既にパジャマから私服に着替えていた。食卓にも美奈の朝食が無かったし、俺より早く起きて朝食を食べ終えていたようだ。

「お兄ちゃんおはよう。この後また部屋の片付け手伝ってもらっていい?」

 なるほど、それを言うために降りてきたのか。わざわざここまで来なくても、俺が朝食を食べ終えて部屋に戻るのを待っていてもよかっただろうに。

「ああ、いいよ」

「ありがとうお兄ちゃん」

 美奈は笑顔でそう言うと、手をひらひらさせて自分の部屋に戻って行った。

 朝の情報番組を見ながらゆっくりと朝食を食べた。

 朝食を食べ終えて、部屋で私服に着替え、美奈の部屋のドアをノックした。

「はーい」

 高い声と共に、ドアがガチャっと開いて、美奈が出迎えてくれた。

「お兄ちゃん入って」

「おぅ」

 昨日に引き続き入った美奈の部屋は、昨日片付けをした状態のままだった。

 昨日の今日でまた散らかされたんじゃあ昨日の苦労が水泡すいほうすからたまったものではないけど、さすがにそんなことはなかった。

「とりあえず掃除機持ってくる」

 俺は美奈にそう言うと、一階に降りて掃除機と、ク〇ックルワ〇パーを両手で持ち、また美奈の部屋へと戻った。掃除機はコードレスだけどやっぱりちょっと重いな。

 美奈は布団に何かしらの機械をあてていた。

 あれは、「干すより綺麗」が謳い文句の布団専用の掃除器具じゃないか。え?それ、うちにあったの?

「あぁ、これ?お母さんが何年か前に買ってたんだけど、前に使ったまま私の部屋にずっとあったの」

 俺がその器具をガン見していると、美奈が何故ここにあるのか説明してくれた。

 つまりは借りパクか?いや、家族みんなの物だから借りパクって言葉もおかしいけどさ。

 とにかくそんな便利な器具があるなら昨日コロコロで掃除する必要もなかったわけだ。

「美奈、それ後で貸してくれ」

「いいよ~」

 美奈から器具を借りる約束をとりつけ、俺は床の掃除を始めた。

 掃除機で入念に床全体のホコリ取り除き、そこにク〇ッククルワ〇パーで追い打ちをかける。

「よし、綺麗になったな」

 美奈の部屋のフローリングは、俺の部屋同様、ピカピカになった。フローリングの色は美奈の部屋の方が明るいため、俺の姿がフローリング越しにぼんやり見えたりはしなかった。

 綾奈の布団も用意しておくか。

 そう思った俺は、物置部屋から布団を持ってきた。圧縮袋に入っているからぺたんこだ。

 圧縮袋の封を開け、空気を入れる。すると、みるみるうちに布団が元の大きさに戻った。

 大きさの戻った布団を圧縮袋から取り出し弾力を確認するため、布団に手を置き体重をかける。すると、いい感じに手が布団に沈む。なかなか良質な布団のようだ。

 弾力を確認した俺は、念の為先程まで美奈が使っていた布団専用の掃除器具で綾奈が使うこの布団も綺麗にし、その布団を美奈の部屋の隅に三つ折りにして置く。ホコリが被らないようにタオルケットを上にかぶせておく。

 そんなこんなで二日間に及ぶ美奈の部屋の掃除は終わりを迎えた。

 なんということでしょう。フィギュアのケースが積まれていて、狭く感じていた妹の部屋は元の広さを取り戻し、床に置かれていた本も、綺麗に本棚に並べられていて整頓されていました。

「ありがとうお兄ちゃん!」

「おう」

 美奈がお礼を言ってきたのでそれを受け取る。こういう素直なところは美奈の美点だ。

「はいこれ」

「サンキュ」

 そして、美奈が布団の掃除器具を手渡してきたのでそれを受け取って美奈の部屋を出よう、ノブを握ったら、背後から妹の声がした。

「お義姉ちゃんが寝るかもしれないし、綺麗にしとかないとねぇ」

 その言葉に美奈の方を向くと、美奈はニヤニヤといたずらっぽい笑顔をしながら俺を見ていた。これは……美点か?

「そんなわけないだろ」

 昨日綾奈と電話している時、俺と一緒に寝たいと言ってきたが、俺はそれをやんわりと断った。俺以外の家族全員が揃って一晩家を空けるなんて事はほぼありえないから、綾奈が俺のベッドで寝ることは今回はないだろう。今回は。

「でもこの前お兄ちゃんのベッドで二人で寝てたじゃん」

「見たのかアレ!?」

 確か二時間くらい寝てたから、その間に美奈が入って来てもおかしくはない。

「うん。二人ともすっごい幸せそうに寝てたから今回もするのかなって」

 そう言いながら美奈はほんのりと頬を朱に染めた。あの添い寝の瞬間を思い出したんだろう。

「今回は添い寝もないよ」

「え~」

 美奈が抗議の声を上げた。なんでお前が不満なんだよ。

「家族がいる家の中で出来るわけないだろ」

 見られたらなんだか生温かい目で見られそうだし、それに、あの時は眠かったから普通に添い寝したけど、次があったら理性が仕事してくれるかわからないしな。

「お義姉ちゃんが一緒に寝たいって言っても?」

 美奈の追撃は終わらない。まさか、昨日の綾奈との通話の内容、聞いていないよな?

「しないって…………多分」

 綾奈が必死に訴えてきたら抗える気がしないので「多分」をつけてしまった。相変わらず愛する未来のお嫁さんの頼みには弱い。

「じゃあちょくちょく覗きに来よ~っと」

「……部屋に入れないようにバリケード作ってやる」

 美奈は再び抗議の声を漏らしたが、少ししてどちらともなく吹き出し笑いあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る