第168話 (第3章エピローグ)私たちも、あんな幸せな夫婦に……

「おかえり綾奈」

「お父さんただいま」

 それから、お父さんはお母さんと同様に、真人とのデートの感想を聞いてきたので、私もお母さんにしたのと同じ返答をした。

「ねえあなた。綾奈の左手を見て」

 お父さんは、お母さんの言う通りに視線を私の左手に向けた。

「! 綾奈、それは」

「う、うん。真人からのクリスマスプレゼントだよ。私と、将来本当に結婚してくれるって約束もしてくれた」

「!!」

 私の言葉に、お父さんは目を見開いて驚いていたけど、すぐに優しい笑顔になった。

「よかったな。綾奈」

「うん」

「しかし、どうして真人君は付き合ってまだ二ヶ月くらいでその指輪をプレゼントしてくれたんだ?綾奈のことを本当に大事にしてくれているのはわかってるが、気が早いというか……」

 高校一年で、付き合って二ヶ月ちょっとで彼女にあげるプレゼントではない。普通はそう思うよね。

「その、真人が同級生に告白されて、私が不安に感じていたから、私にそんな思いをさせない為にってプレゼントしてくれたの」

「……なんというか、真人君は本当に真っ直ぐな子だな」

 私もそう思う。真人は真っ直ぐで優しい最高の彼氏だ。

「お父さんも、許してくれるの?」

 何を、とは言わなかったけれど、お父さんは察してくれたみたいで、首を縦に振った。

「そりゃあ、二人の交際を認めてるんだ。今すぐ結婚するって言ってるわけじゃないんだし、それを認めないわけないじゃないか」

「ありがとう。お父さん」

「真人君のこと、大事にしなさい」

「はい!」

 私は、お父さんの言葉に力強く頷いた。

 すると、お母さんはソファから腰を上げ、お父さんの方に近づいて行った。

「さ、もう夜も遅いし、も明日は早いからそろそろ上に上がりましょう」

 お母さんはそう言うと、お父さんと腕を組んだ。

「うん。そうだ…………ん?」

 そのお父さんは、お母さんの言葉と行動に驚きを隠せないでいた。

「か、母さん?」

「なぁに? 弘樹」

 混乱するお父さんに、お母さんは微笑みかけてまたお父さんの名前を呼んだ。

 その微笑みは、娘の私から見てもすごく綺麗だった。

「ど、どうしたんだ? いつもは俺のことを『あなた』って呼ぶのに」

「ふふ。綾奈が真人君を呼び捨てで呼ぶようになったから、私も久しぶりに弘樹って呼んでみたくなったの。どう? 弘樹」

 お父さんの顔がすごく赤くなっている。

 確かに、私の記憶の中では、お母さんがお父さんを名前で呼んだことなんてここ五年以上はなかったはず。

 好きな女性に呼び捨てで呼ばれたら嬉しいのは、やっぱりどんな男の人でも同じなんだ。

 私も真人と結婚したら、お母さんみたいに『あなた』って呼んで、たまに名前で呼んだりしようかな? そうしたら、真人の照れたかわいい顔を見ることが出来るだろうから。

 まだまだ先の話だからどうなるかはわからないけど……今は、大好きな人の名前をいっぱい呼びたい。

「うん。その……嬉しいよ」

 お父さんのこんな表情、見たことないかも。

「うふふ。じゃあ行きましょう弘樹。綾奈も、明後日から冬休みの間は真人君の家にお世話になるんだから、準備はしっかりとしておきなさいね」

 私の返答を待たずに、お母さんはお父さんの腕を引っ張りなら、二階の寝室に行ってしまった。

「二人とも、仲いいなぁ」

 家ではあの光景はあまり見ないけど、ご近所さんからは「おしどり夫婦」と呼ばれるほど仲のいい二人。

「私も真人と、あんな幸せな夫婦に、ううん。それ以上になりたいな」

 私の将来の目標をかかげながら、私はリビングのテレビや電気を消して、自室へと移動した。

 明日は宿題を出来るだけ終わらせて、そして明後日は早く起きて、真人の家にお泊まりに行く準備をしなくちゃ。

 高校一年の冬休みは、最高のスタートで始まった。

 明後日からは大好きな旦那様と、冬休み中はずっと一緒にいられるんだから、きっと忘れられない冬休みになるんだろうな。

 素敵な思い出、いっぱい作ろうね。

「おやすみ。真人……」

 今日は、幸せな夢を見れそう。

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