第165話 ペンダントを付け合う
観覧車も、あと四分の一で一周が終わってしまう所にさしかかった。
「じゃあ、今度は私のプレゼントだね」
俺の照れと、綾奈のテンションが落ち着いたところで、綾奈は持っていたバッグから、丁寧に包装された細長い箱を取り出して俺の方へとさし出した。
「はい、真人。これが私からのプレゼントだよ」
「っ、う、うん」
頬を赤くし、照れの入った笑顔で言う綾奈に、俺もまた照れながら綾奈のプレゼントを受け取った。
綾奈からのプレゼントというだけでまた顔が緩みそうになるが、必死に耐える。
「開けてもいい?」
「もちろん」
綾奈の許しをもらったので、俺は包装紙を丁寧に取り外し、箱を開けた。
すると、そこにはペンダントが入っていた。
「うわぁ……!」
それを見た俺は感動の声をもらした。
この長さだったら余裕を持ってつけることが出来そうだ。
去年までの太っていた俺だったら、首回りがキツキツで不格好になっていたに違いない。
俺は視線をペンダントヘッドに向けた。
この水色のペンダントのヘッドの部分は独特な形をしていて、一方は楕円みたいになっていて、もう一方はギザギザになっている。この形は、ハートが割れているような───。
「あっ!」
その考えにいたった俺は、思わず声を上げた。
「綾奈、これって……」
「うん」
俺の言葉に頷くと、綾奈はまたバッグに手を入れて何かを探し始めた。
目当ての物を見つけ、バッグから手を離した。その手は軽く握られていて、何を持っているか俺からは見えない。
綾奈はゆっくりと手を開き、持っている物を俺に見せた。
するとその手には、先程俺にプレゼントしたペンダントと形が一緒の、ピンク色のヘッドを持つペンダントがあった。
「二つで一つの、ペンダントだよ」
「っ!」
まさかこんなプレゼントを用意してくれていたなんて……。
その事がとにかく嬉しすぎて、また顔が緩んでしまった。
「ありがとう。綾奈」
「えへへ。真人が喜んでくれて私も嬉しい」
俺たちはそうして笑いあったが、ここでひとつの些細な疑問が浮かんだ。
「ところで、綾奈はなんで今日そのペンダントを付けなかったの?」
本当に些細な事なんだけど、ペアのペンダントなら、今日のデートにつけて来て、このプレゼントを渡すタイミングで、自分の首につけているこのペンダントを見せてタネを明かす……みたいなことも出来たんじゃないだろうかと思ったので聞いた。
「えっと、それは……」
俺の質問を聞いた綾奈は、歯切れが悪くなってもじもじしている。かわいい。
そして、上目遣いで俺を見て答えた。
「ま、真人と同じタイミングでつけたかったから……」
「っ!」
可愛すぎる理由を可愛すぎる表情をした綾奈から聞いてしまった俺は、頬がすごく熱くなり、照れくさくて綾奈の顔を見れなくなり、思わず首を右に振った。今日は本当に綾奈にしてやられてばかりだ。
「えっと、つけて……くれる?」
綾奈は上目遣いのまま、お願いしてきた。
俺はまだ熱くなっている頬をそのままに、綾奈に向き直って頷いた。
「わかった」
俺が綾奈のペンダントを受け取ると、綾奈は後ろを向いて、自身の髪を持ち上げた。
肩にかかるかかからないかの長さの美しい髪が持ち上がったことにより、今まで見ることの出来なかった綾奈のうなじが俺の目の前に現れた。
その美しすぎるうなじを見て、俺は生唾を飲みこんだ。
って、違う! ペンダントをつけないと!
俺は震える手でペンダントの留め具を外し、上からゆっくりと綾奈の首にかける。
またうなじに行きそうになる視線をどうにか留め具にとどめて、俺はペンダントの留め具をとめた。
ペンダントが首にかかったことを確認した綾奈は、持ち上げていた髪をそっと下ろしたことにより、うなじが隠れてしまう。
少し残念に思ったけど、多分これから見ようと思えば見せてくれるはずだからと思うことにし、うなじから意識を離した。
「ありがとう真人」
首につけられたペンダントを見て綾奈はすごくご満悦な表情をしている。俺はその表情に見惚れていた。
「じゃあ、真人にもつけてあげるね」
そう言いながら、綾奈はペンダントの留め具を外す。
「う、うん。わか───」
俺が後ろを向こうとするより早く、綾奈は俺の首の後ろに手を回した。
「あ、綾奈!?」
綾奈は正面から俺にペンダントをつけてくれようとしている。
それにより今、綾奈の顔が俺の目の前にある。
俺はまた顔が熱くなり、超至近距離にある綾奈の顔を見れなくて、目を左右へと泳がせてしまう。
どうしたんだろう? 今日の綾奈はいつもより積極的に自分からスキンシップをとろうとしてくる。
もちろん嬉しい。自分の彼女……いや、もう婚約者か? その大好きすぎる婚約者からこんなに積極的に来られて嬉しくないやつは絶対にいないだろう。
あー、ヤバい。すごくキスがしたい。
だけど、観覧車はもうすぐ一周が終わる。今も下で順番待ちをしている人や、係員の人の顔もバッチリと見えるくらいだ。
流石にこんな高度でキスは出来ないと思った俺は、持てる理性を総動員させて、キスがしたい衝動をすんでのところで押し返した。
留め具をとめ終えたのか、綾奈は俺の首の後ろから手を離し、顔も俺から離れた。綾奈の頬は真っ赤になっていた。多分綾奈自身も相当勇気を出して、正面からペンダントをつけてくれたんだろうな。
「ありがとう綾奈」
ペンダントをつけてくれた綾奈にお礼を言う。
「どういたしまして」
それに対し、綾奈は満面の笑みで答えてくれた。
その笑顔は、観覧車で見たこの街の夜景がかすんでしまうほど美しかった。
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