第156話 映画館へ行こう
電車に揺られること一時間半。
俺たちが来たのは、俺たちが住んでる県の一番大きな
一番大きな市だけあって、建物も大きいし、行き交う人の多さも俺たちの地元のそれとは大分多い。
小さい頃は家族でこっちに遊びに来たことはあったが、大きくなってからはめっきりと来なくなった。
だからここに来たのは実に数年ぶりだ。
駅を出て路面電車に乗り、やってきたのは県民ならほとんどの人が知っている有名な商店街だ。
ここは俺たちの地元のアーケードとは比べ物にならないほど大きく、商業施設の数も倍以上だ。
ここに来るだけで色んなお店があるので目移りして寄りたくなってしまうが、俺たちはこの商店街内にある映画館へ向かっていた。
添い寝をした日、俺の部屋でクリスマスデートの計画を立てている時、綾奈が見たい映画があると言ってきたのだ。
綾奈とお付き合いを始めて、まだ一度も映画館に行ったことがなかったし、綾奈が勧めてくる映画だからきっと面白いものだと思った俺は即決した。
「いいよ。どんな映画なの?」
やはりどんな映画か気になるのは当然だと思うので、綾奈に映画の内容を聞いてみた。
すると綾奈は、おもむろにスマホを取り出して操作をし始めた。
「ん~っと」
綾奈の可愛い姿を見ながら待っていると、数十秒後、綾奈がスマホの画面を見せてきた。
「これなんだけど……」
「どれどれ……あれ?これって」
それは、学園を舞台にした恋愛映画だった。
だけど、気になったのはその映画のタイトルだ。
俺はこの映画のタイトルを見たことがある。そう、あれは確か……。
「綾奈、このタイトルって……」
綾奈に目をやると、綾奈はにっこり微笑んで「うん」といい、続けて言った。
「この映画の原作は、真人君と初めて下校した時に寄った本屋さんで、その時私が『何の変哲もない普通の恋愛漫画』って誤魔化してしまった漫画なの」
「やっぱり。どうりで見たことのあるタイトルだと思った」
実写映画になるほどの作品だからやっぱり漫画も面白いんだろうな。
ただ気になるのは、どうしてあの時綾奈はそんな風に誤魔化したのかということ。
「あの時ちょっと見ただけのはずなのに覚えててくれたんだね。……嬉しい」
「そりゃ、綾奈との初めての放課後デートの時に見たから、あの日の事は鮮明に覚えてるよ」
「ありがとう真人君」
「でも、どうしてあの時は誤魔化したの?」
「そ、それは……」
綾奈は顔を赤くしてもじもじしている。伝えにくい事でもあるのかな?
「こ、この漫画の主人公の女の子が、相手の男の子を好きになった理由が、……私が真人君を好きになった理由と似ているから」
「え?」
綾奈が言うには、主人公の女の子が、印象最悪だったクラスメイトの男の子の意外な一面を偶然見てしまって、そこから少しずつその男の子が好きになっていき、両想いになり結ばれるといったストーリーだそう。
「私も、印象最悪ではなかったけど、真人君が私のおばあちゃんの朝の散歩の手伝いをしてるのを見るまでは、あまりいい印象を持ってなかったから。だからあの時、咄嗟に誤魔化しちゃったの」
高崎高校の文化祭の日、綾奈の告白で同じ事を言われたな。
つまり、俺が綾奈のおばあちゃんの新田幸子さん(俺は幸ばあちゃんと呼んでいる)の散歩の手伝いをしているのを綾奈が見ていなかったら、今この時、綾奈と恋人関係になれていなかったわけだ。
そう思うと、幸ばあちゃんのお手伝いをしていて本当に良かったと思う。
「誤魔化すのと同時に、こうも思ったんだ」
綾奈は俺のベットにもたれて天井を見上げた。
「いつか私の想いを真人君に打ち明けて、真人君とお付き合いをしたら、この原作漫画を貸して、感想を聞いたり、この漫画の事をお話出来たらなって」
「綾奈……」
俺は嬉しくなり、自然と綾奈の頬に手を置いていた。
「ぁ……えへへ」
綾奈はふにゃっとした笑みを見せてくれて、そこからはまたイチャイチャした。
あれから日にちが経っていなかったのだが、綾奈から漫画を借りて、現在刊行させている巻まで全部見た。
少女漫画をちゃんと見たのは初めてだったけど、予想以上に面白かった。
それからこの映画の公式サイトでPVを見たり、キャストの配役をチェックしたしりた。主演の二人は今注目の俳優、女優として人気がある二人だった。うん。キャストは合っていると思う。
だが、PVを見ている時からもしやとは思ったけど、この主演の
「この映画の主演の女優さん、年内で無期限の活動休止になっちゃうんだ……」
俺がまさに主演女優のことを考えてたら、綾奈が言った。
「そうなの?」
「うん。……私達のひとつ上の現役高校生だから、学業に専念するんだって」
「ということは、少なくとも高校を卒業するまでは表舞台には出てこない可能性が高いわけだ」
「多分そうだと思う。……うぅ、杏子ちゃん、ファンだから寂しいよぉ」
この綾奈の落ち込みよう……本当にこの氷見杏子が好きみたいだな。
今まで好きな芸能人の話なんてほとんどしてこなかったからな。新たな発見だ。
「今度テレビで見る時は、もっと綺麗で魅力的な女優になってるはずだから、俺達は信じて待ってようよ」
「……うん!」
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