第153話 全力デートコーデの綾奈、登場!

「うおっ!?」

「「「!?」」」

 野球部トリオもいきなりつんのめった俺を見て一斉に驚いている。

 後ろから俺のお腹に手を回している事で、衝撃を与えた犯人がわかった。こんな事を俺にする……いや、してくれる人は一人しかいない。

「おまたせっ!」

 俺の背後から、好きな人の可愛らしい声が聞こえて、俺の口角がわずかに上がった。

「待ってない……よ……」

 俺は振り返りながら言うと、目に映ったあまりに可愛い姿の彼女に言葉を失った。

 今日の綾奈はいつも以上に可愛い。

 白のセーターに膝くらいまであるベージュのコート。膝より少し短い長さの赤いフレアスカートに黒いタイツ。そしてふわふわなファーがついたベージュのミドルブーツとかなり気合いの入ったコーデだ。小さめの薄ピンク色のバッグも可愛い。

 そして前髪を一箇所だけ三つ編みに編み込んでいる。

 そしてうっすらとだけど、化粧もしてきているみたいだ。

 普段見ないファッションと、メイクを施した綾奈に、俺はただただ見惚れていた。

「……っ!」

 って、何ボーッと見惚れているんだよ!? ここは綾奈を褒めるところだろ!

「その、凄く似合ってる。可愛くて見惚れてたよ」

 俺は照れながら本音の感想を綾奈に伝えた。

「…………」

 ところが綾奈から反応はない。

 俺と同様に、俺をじーっと見つめている。

 少しして、段々と綾奈の顔が赤くなっていった。俺の感想が聞こえたのかな?

「…………かっこいい」

「え?」

 どうやら違ったみたいだ。

 綾奈はボーッと俺の顔をただ見ていた。

「真人、君は普段メガネかけないし、髪もセットしないから。普段もかっこいいけど、普段と違いすぎて、かっこよすぎて……あぅ」

 どうやら予想以上に好評なようで一安心だ。

 その後も綾奈は俺を見ては目を逸らしを繰り返している。相変わらず顔は赤い。

「綾奈も凄く可愛い。メイクまでしてくれて、正直めっちゃ見惚れる」

 さっきの感想は多分聞こえてなかっただろうから、俺は綾奈の頭を撫でて、もう一度感想を言った。

「えへへ。真人、君の為に気合を入れてきました」

「? ありがとう」

 なんか今日は俺の名前と君の間に若干の間があるな。

「それじゃあ行こっ!」

 綾奈が俺の手を引き、移動を開始しようとした時。

「「「ちょっと待てぇ!!」」」

 後ろの野球部トリオがキレイに声を揃えてツッコミを入れてきた。ボケのいないお笑いトリオかよ。

「「え?」」

 俺と綾奈は一緒に野球部トリオの方を向く。

「ま、真人……お、お前の彼女って、西蓮寺さんなのか!?」

光輝が俺たちを指さし言った。その指はプルプルと震えていた。

というか、人を指さすなよ……。

「どういう事だよ!なんでお前と西蓮寺さんが付き合ってるんだ!?」

「学校一の美少女と言われた西蓮寺さんを、どうやってお前が射止めたんだよ!?」

 また質問攻めが始まった。綾奈と付き合ってる時点でこうなる事は予想出来たけど、予想以上の食い付きだなこいつら。

「わぁ~。政枝君、本郷君、沢津君。三人とも久しぶりだね!」

「「「お、お久しぶりです」」」

 綾奈が笑顔で挨拶をすると、三人とも照れた様子で返した。さっきの勢いはどうしたんだよ。

 また質問攻めになっても面倒なので、俺たちが付き合った経緯を綾奈と一緒に三人に簡単に説明した。

「ま、マジかよ……」

「そんな事が……」

「あの西蓮寺さんが一年以上前から真人が好きだったなんて」

 三人は、俺たちの経緯を聞いて明らかに口数が減った。まぁ、気持ちはわからんでもない。

「まぁ、でもこの表情を見ると、西蓮寺さんが真人が好きってわかるよ」

「そ、そんなにかな?」

「うん。マジで真人しか見えていない感じがするもん」

「西蓮寺さんをこんな顔に出来るのは真人だけなんだろうな」

 あれだけの勢いで質問攻めをし、信じられないような表情をしてきた野球部トリオは、綾奈の幸せそうな顔を見て納得したようだ。

 綾奈をこんな表情に出来るのは俺だけって、言われるとかなり照れくさい。俺は頬を指でポリポリかいた。

「えへへ。真人君は私の未来の旦那様だもん」

「「「は?」」」

「あ……」

 俺があえて出さなかったワードを綾奈が言ってしまった。

「「「どういうことだ真人!?」」」

 ほらー。こうやってまた勢いを取り戻するんだから。

「……綾奈」

「あ、あはは。……ごめんね真人君」

 その後は、さっき綾奈が口を滑らせてしまった事への説明をした。

 実際に「旦那様」とか「お嫁さん」って言い合ってるけど、それはまだ言ってるだけで婚約も当人達同士の口約束だということも。

 それを言うと、綾奈は「むぅ」と頬を膨らませてしまった。申し訳なさもあるけど、事実なので仕方がない。

 だが、今は口約束だけど、俺は今日、それを本当の約束にする。

 その為に選んだクリスマスプレゼントもしっかりとこのボディーバッグに入っている。

 綾奈をもう不安にさせない為にも、俺は今日、これを渡すんだ。

 俺達からの説明を受けた野球部トリオは俺たちに別れの挨拶をし、ショッピングモールに向かうため、駅へと入っていった。

「じゃあ改めて、俺たちも行こうか。綾奈」

「うんっ!真人……君」

 ……やっぱりちょっと間があるな。今日は一体どうしたんだろう?

 ここでそのことを聞いたら綾奈は慌ててしまうから、変に追求しないでおこう。

 時が来れば自然と綾奈から話してくれると思うし。

 そう思うようにして、俺たちは電車に乗った。

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