第151話 二人の寝顔を見た妹は親友を思う

 真人と綾奈が眠りについて一時間ほど経過した時、真人の部屋のドアがゆっくりと開かれた。

 キイィィィっと音を立てながら美奈が真人の部屋に入ってきた。

 美奈はドアを閉めると、忍び足でベッドに近づき、そこでくっついて眠っている真人と綾奈を見る。

(二人ともすっごい幸せそうな顔して寝てる)

 美奈が心の中で思ったように、二人は寝ているにもかかわらず、その表情は穏やかで、安心しきっていた。

 そんな二人を見ている美奈の表情は、少しだけ物悲しかった。

 美奈は親友のマコちゃんこと、吉岡茉子のことを考えていた。

 自分の親友で、よくこの家に遊びに来るけど、その度に可愛らしい服を着て来ていた。

 オシャレに気を使っているのかと最初は……いや、つい最近まで思っていたのだが、実際はそうではなかった。

 茉子は、真人にオシャレな格好を見てもらい、それを褒めてもらいたかったから、だからいつもオシャレで可愛い服を着て来たのだ。

 そしてテスト期間中の日曜日、中筋家を訪れた茉子の口から、真人が好きだと告げられた時、美奈は驚きのあまりぽかんとして何も答えられなかった。

 まさか自分の親友が、自分の兄に惚れていたなんて……。

 その日の夕方、中筋家を後にした茉子を追って美奈も家を出て、茉子に追いつき話をして、そして茉子は外にもかかわらず大声で泣いた。

(そりゃあ、ずっと好きだった人が他の女の人と幸せそうな話を聞いたら、泣きたくなるよね)

 茉子は、綾奈が真人に惚れるずっと前から真人が好きだった。

 告白する勇気が持てず、ずるずると片想いの期間を積み重ねていく間に、真人は綾奈を好きになり、そして二人は付き合いだした。

 茉子も、「自分が一歩を踏み出せなかったから仕方ないよ」と言っていたが、初恋がこんな形で終わってしまって、辛くならない人はこの世にいないだろう。

(でも、マコちゃんもちゃんと新しい一歩を踏み出そうとしていたな)

 直近の茉子は、やはりまだ失恋のショックから完全に立ち直れてはいないものの、その表情は振られる前とほとんど変わりがなかった。

 ちゃんと茉子自身の中でけじめと踏ん切りをつけて、真人への想いを断ち切ろうとしていたのだ。

『みぃちゃん。私、真人先輩の妹になれるかな?』

 そんなことを茉子は美奈に言っていた。

 確かに真人の恋人になる事は諦めているものの、今度は自分のポジションが脅かされている現実に、その時の美奈は苦笑いで返した。

(お兄ちゃんの妹ポジは絶対に譲らないけど、そうなるとマコちゃんは私の妹に……悪くないかも)

 なんだかんだで茉子が狙っているポジションは、美奈にとっても満更ではなかった。

(マコちゃんも身を引いたんだから、お義姉ちゃんと幸せになれなかったら許さないからね。お兄ちゃん)

 心の中ではそんなことを思っていた美奈だが、穏やかな表情で兄と義理の姉になるであろう美少女を見ていた。

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