第143話 クリスマスプレゼント選び

 綾奈とデートをした翌日の日曜日の午前中。

 俺は一哉、健太郎と共に、ショッピングモールに来ていた。

 その目的は、二週間後に迫ったクリスマスイブに、各パートナーに贈るプレゼントを買うためだ。

 最初は色んなお店を回ってプレゼントの候補を選ぼうとしたのだが、ここは初めてクリスマスプレゼントを買うトリオ。中々これと言った物が見つからずに困っていた。

 そして今、俺たちは以前茜が一哉にプレゼントしたブレスレットを購入した雑貨屋に来ていた。

 クリスマスコーナーが展開され、店内にはそれ以外にも冬用の雑貨が陳列されていた。

「クリスマスプレゼントって何をあげたらいいか本当に迷うな」

「だな。何か普段とは違った特別な物をって思うと決められないな」

 俺と一哉はこれと言った物が見つからずに少し途方に暮れていた。

「難しく考えるからじゃないかな?西蓮寺さんも東雲先輩も、二人からプレゼント貰ったら何でも喜んでくれると思うよ」

 それは思う。綾奈は俺からの贈り物ってだけで目をキラキラさせるだろうな。

 プレゼントの中身はそれほど重要じゃないってわかっていても、そこはクリスマス。ちょっと気合いを入れたい。

「健太郎は千佳さんへのプレゼント、決まったのか?」

「うん。ちょっと無難だけど、マフラーに決めたよ」

 健太郎が指さした方を見ると、オレンジ色のマフラーがあった。千佳さんの髪の色より濃いオレンジ色で、千佳さんに似合いそうだと思った。

「いいじゃん。宮原さんも喜んでくれるだろ」

「だといいな」

 そう言った健太郎は照れている。イケメンはどんな表情をしても画になる。

「一哉はどうするんだ?」

「ん~、アクセサリーにしようかと思ったんだけど、俺たちはもうお揃いのアクセサリー持ってるからなぁ」

 そう言って一哉は右腕を顔の位置まで上げた。

 その腕には、茜がプレゼントした黒のブレスレットがある。茜とお揃いのデザインで茜のは赤色だ。

「食べ物にしようかとも思ったけど、やっぱり形として残せるものにしたいな……」

 形あるものを送ると、別れた後の処理が大変……なんて言葉を聞いたことがあるけど、一哉と茜にそんなの心配する必要も無いだろう。

「俺もマフラーにするか」

 そう言って一哉もマフラーを手に取ったのだが……。

「なぁ、このマフラー、長すぎね?」

 どう見ても一人で使うには長すぎる。茜はバレーやってて細身だから余計そう思う。

「まだまだだな真人。これは、二人で使うものだ」

「二人?……あ」

 なるほど、そういう事か。

 このマフラーの長さは、一つで二人の首に巻くマフラーなんだ。

 なんか久々に一哉と茜のバカップルな一面を見た気がした。

「このバカップルめ」

「お前にだけは言われたくねぇな」

「あはは」

 ともあれ二人ともクリスマスプレゼントを決めてしまって、後は俺だけだ。

 二人ともマフラーにしたし、特にこれと言って他のプレゼントを思いつく訳でもないので、俺もマフラーにしようと手を伸ばしたら、一哉に腕を掴まれて止められた。

「ちょい待ち」

「なんだよ一哉」

 一哉の顔を見ると、珍しく真剣だった。

 健太郎は一哉の意図がわからずにきょとんとしている。

「お前、この前北内さんに告られたんだよな?」

「あ、あぁ」

「で、それを西蓮寺さんに話したんだよな?」

「まぁ……黙ってるのも綾奈に悪いと思ったし」

 一哉は一体何の質問をしているんだ?

「真人が北内さんのからの告白を断るのはわかってたと思うけど、それでも西蓮寺さんは不安だったろうな」

「うん。それは綾奈も言ってた」

「彼氏のことが好きすぎる彼女ってのは、いざ彼氏が他の誰かに告白されると、断るとわかっていても途端に脆くなるんだよ」

「どこ情報だ?」

 そんな話初めて聞いたわ。

「今俺が初めて言った」

「お前が発信源かよ!?」

 そりゃどこにも情報が無いわけだ。危うくスマホで調べるところだった。

「でも一哉の言うこともわかるよ」

 健太郎が一哉の適当な言葉に乗っかってきた。

「え?」

「北内さんって美少女だし、割とモテるって聞いてるし、そんな人に自分の彼氏が告白されたら心中穏やかにはいられないと思うよ」

「そういうものかね?」

 健太郎の言うことにもいまいちピンと来ない。たとえどんな美少女でも、俺はその人の告白に首を縦に振らないのだからいいのではないか?

「「……」」

 一哉と健太郎が顔を合わせて苦笑している。

 え?俺ってそんなに変なのか?

「逆の立場で考えてみろよ。もし西蓮寺さんが翔太さんクラスのイケメンに告白され──」

「絶対嫌だ!」

 一哉の言葉を遮って俺は否定した。

 なるほどな。

 綾奈も俺以外の人から告白されても、それを断るとわかりきっているけど、確かにそれを聞いて落ち着いてなんかいられない。あの時の綾奈は、こんな心境だったのか。

「お前は真っ直ぐな性格だから、西蓮寺さんを不安にさせない為に言ったんだろ?それ自体は間違ったことではないけど、それでも西蓮寺さんは、本人も言ってたそうだけど、不安に感じたんだろ?」

「た、確かに……」

 北内さんに告白された事を綾奈に伝えたのは、俺のエゴだ。

 綾奈に安心してほしくて言った言葉だが、俺が綾奈以外の人になびく事はないと綾奈がわかっていても、それとこれとは別問題。全く不安に感じないわけがない。

「そこでた」

 一哉は突然スマホを操作し出した。どこかへ連絡をとろうとしているわけではないみたいだ。

 数秒操作すると、一哉は自分のスマホの画面を俺に見せてきた。

「西蓮寺さんへのクリスマスプレゼント、こんなのはどうだろう?」

 俺はスマホの画面を見て驚いた。

 そしてすぐに難色を示した。

「……いや、これは重すぎるだろ」

 気持ち的にはもちろん、値段的にも高校一年生がプレゼントに選ぶ代物ではない。

 これは社会人が汗水垂らして働いてやっと買えるものだ。

「別にこれ自体をプレゼントしなくてもいいんだよ」

「どういう意味だよ?」

 一哉の言っている事が、またピンと来ない。

「こんなの、俺たち普通の高校生はどうやったって手が出ない代物だ。だからこれよりグレードを下げた、こういう雑貨屋で買えばいいんだよ」

 確かにそれなら買えなくもないが……。

「それなら気持ち的にはどうなんだ?金銭面では解決したとしても、これと同じ意味を持った物をプレゼントする高校生はいないと思うぞ」

 もしいたとしても、それは金持ちの御曹司で、今の俺たちより若い頃から許嫁がいて、その人をめちゃくちゃ大切にしている人、みたいなほんのひと握りの人しかプレゼントには選ばないだろう。

「そこは問題ないんじゃないかな?」

 今度は健太郎が言った。

「そうか?」

「だって、二人は普段から「旦那様」とか、「お嫁さん」なんて言ってるんだから。そんな事を言い合う高校生も、相当レアだと思うよ」

「ぐっ……言い返せない」

「つまり、それだけ愛し合っているお前達だ。こういう意味合いを込めたプレゼントをしたって何ら重くないし問題もないんだよ」

「これは真人達程愛し合ってないと出来ない事だよ。西蓮寺さんを本当の意味で安心させてあげる為にも、このプレゼントは良いと思うよ」

 こいつら、よくこんな所で「愛し合ってる」なんて言えるな。聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。

 でも……そうだな。

 俺が告白されるなんて、多分もうないと思うけど、綾奈を不安にさせたくない。仮にもしまた告白されても、そんなの気にさせない位、俺が綾奈を愛している事を、綾奈自身にもう一度、改めてはっきりとわかってもらう為にも、このプレゼントはアリだと思った。

「わかった。なら……これにするよ」

 こうして俺は、この雑貨屋にあった、三千円程の、あるアクセサリーを購入した。

 後はこれを綾奈が気に入ってくれるか……勝負はクリスマスイブだ。

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