第134話 香織の告白の件を告げる

 駅を離れて、今は綾奈の家に向かっている。

 俺は先程よりは幾分落ち着いつき、綾奈と手を握り一緒に歩いていた。

 そんな俺の頭の中には、この後するであろう綾奈とのキス……ではなく、電車に乗った時に思っていたことを再び考えていた。

 北内さんに告白された事、ちゃんと綾奈に言わないとな。

 その上で断ったことを伝え、安心させたい。

「ねぇ、綾奈」

 意を決した俺は、綾奈の名を呼んだ。

「どうしたの?」

 突然名前を呼ばれ、綾奈はきょとんと首を傾げた。その仕草がとても可愛らしい。

「以前、合同練習の時に俺の教室の前でぶつかりそうになった女子がいたじゃん」

 綾奈の俺の手を握る力が強くなった。

「う、うん。……確か、北内さん、だよね?」

「うん。……じ、実は」

「……実は?」

「一昨日、その北内さんから、こ、告白された」

「っ!」

 綾奈は身体をビクッと震わせ、俺の手を握る力が一瞬だけど、さらに強くなった。

「そ、そう、なんだ」

「うん」

「「…………」」

 流れる沈黙。かなり気まずい。

「で───」

「でも、真人君は断ったんでしょ?」

 俺が言おうとした言葉を、綾奈は聞いてきた。

「もちろんだよ。大好きな綾奈がいるのに、北内さんの告白をOKするとかありえない。というか、俺に告白してきた段階で、北内さんはほとんど吹っ切れていたって言ってた」

「そうなの?」

「うん。あの時の俺たちを見て、「お互い凄く好き合ってるな」って思ったらしい」

「本当の事だけど、そう言われると照れるね」

「うん」

「それで、北内さんはその後なんて言ったの?」

「自分の初恋をちゃんと終わらせたくて告白したって。それで友達として仲良くしてほしいって言われた。俺も友達としてなら北内さんと仲良くしたいと思ってる」

「うん。私もそれがいいと思う。実はあの合同練習の昼休みの時、北内さんを見てちぃちゃんから「北内さんは真人君の事が好き」って聞いてたから、私も北内さんの気持ちは知ってたんだ」

「千佳さんが!?」

 知らなかった。というか、千佳さんはたったあれだけのやり取りで、北内さんが俺に好意を持っていたことがわかったのか? ギャル、恐るべし。

「清水君に聞いたって言ってたよ」

「健太郎!?」

 健太郎は気づいていたのか?当の俺は全くそんな事思いもしなかったのに。

 まぁ、あいつは普段から周りがよく見えてたからな。あの時は前髪が長くて自分の目は見せてなかったけど。

 歩きながら話をしていて、気がついたら打ち上げの帰りに寄った公園に来ていた。知らないうちにいつもとは違うルートを歩いていたみたいだ。

「えいっ!」

 公園に入るなり、綾奈は俺に抱きついてきた。いつもより抱きしめる力が強い。

「真人君が北内さんの告白を断るのはわかってたけど、やっぱり不安だった」

「うん」

 綾奈は震える声で言って、俺はそれに対して返事をし、優しく綾奈の身体を抱きしめた。

「真人君は私の未来の旦那様で、真人君の身も心も私の物なの」

「うん。そうだよ」

「他の人には、絶対、ぜーったいにあげない!」

「俺も、綾奈以外の女性にあげるつもりなんてこれっぽっちもないよ」

 綾奈の言葉、そして仕草から、俺への深い愛情がこれでもかと伝わってきて、俺の心は満たされていく。

「真人君……いっぱい、ギュッてして」

「ああ」

 そうして俺たちは誰もいない公園でしばらくの間、強く抱きしめ合い、唇を重ね合った。

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