第135話 綾奈が恐れていること

 真人君が告白された。

 相手は真人君のクラスメイトの北内さん。ショートヘアが似合う美少女。

 前に合唱部の合同練習で風見高校に行った時に初めて見た彼女。その時の北内さんの動向を見て、ちぃちゃんは北内さんが真人君に惚れていると確信めいていた。

 北内さんさんはもうほとんど真人君のことは吹っ切れていると真人君から聞いたし、真人君もちゃんとお断りをしてくれたから、この件は終わりを迎えている。

 でも、私の心は落ち着いてはくれなかった。

 真人君は高崎高校の文化祭のイベント、大告白祭で、中学の時、生徒会が行ったいじめに関する劇で、その時主人公役を演じていた中村君に私が告白したシーンを見て焦りを感じたと言っていた。

 あの時とはシチュエーションは違うけど、さっきの真人君の話で私も焦りを感じた。

 真人君は私を心から愛してくれている。それに関してはもう疑う事はしない。

 でも、真人君が他の誰かから告白されるのを想像すると、どうしようもなく不安になる。

 北内さんは自分の気持ちにけじめをつけるために告白したって言ったからそこまで不安にはならなかった。

 でも、もし他の人、私の全く知らない人が本気で真人君に告白しようとしてきたら……私から真人君を本気で奪い取ろうとしてくる人がもし現れたら……。とても形容し難い恐怖が私の心を飲み込んでしまう。

 私の心は弱いままだ。真人君を奪い取ろうとしてくる見えない相手に凄く怯えてしまっている。

 真人君のように、私に言い寄ってくる人達を一蹴出来るような強さが欲しい。

 そうしたら、今のような気持ちを抱かないで、どんな人にも臆することなく堂々と真人君の隣に立てると思うから。

 合唱コンクール全国大会の当日に、真人君から貰った御守りみたいな物にすがってでも、心を強く持てるようになりたい。

 この日から約一ヶ月後に迫った恋人達の聖なる夜に、そう願った私の心が無敵になれる贈り物を貰うことになるなんて、この時の私は思ってもみなかった。

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