第132話 北内香織の告白
俺が無意識で綾奈の家に行ってしまった翌週の水曜日。
俺はまた気分を変える為、今回は自分の教室に残ってテスト勉強をしていた。
一哉は茜と、健太郎は千佳さんとそれぞれ勉強する為に学校を後にして、今この教室にいるのは俺一人だ。
夕焼けが差し込む教室、テスト期間中の為、部活動に勤しむ生徒達の声は聞こえず、学校に残っている生徒や教職員の声が小さく聞こえる。
時刻は夕方五時。最終下校時刻まであと一時間。
俺はそれまで頑張って勉強しようと思い、ペンを走らせていた。すると、
「中筋君? まだ残っていたの?」
「え?」
俺を呼ぶ声が聞こえてきたので、その声がした方を見ると、クラスメイトの北内香織さんがいた。
「北内さん。え? どうしたの」
「私は図書室で勉強しててね。帰ろうと思ってふと教室に寄ってみたら、中筋君がまだ勉強しててびっくりして声をかけちゃった」
北内さんもテスト勉強頑張ってるんだな。部活も頑張ってるみたいだし、目標があると頑張れるタイプなのかもしれないな。
「そっか。お疲れ様」
「ありがとう中筋君」
そう言いながら北内さんは、俺の前の席の人の椅子を引き、それを後ろに回し座った。
「でも、中筋君は今までのテスト、そこまで根を詰めてまで頑張ってなかったよね?」
北内さんは、よくそんな事知ってるな。
「まあね」
綾奈との事を話しても良いのだけど、大して話をしないクラスメイトの惚気話を聞かされても反応に困ってしまうと思い、一言だけ返した。
「やっぱり、奥様の為?」
「……へ?」
北内さんの言葉で俺の動きはピタッと止まった。
なんで北内さんがその事知って……と思い、俺は先週金曜の昼休みのやり取りを思い出した。
確かあの時、綾奈にほとんど会えてなくて寂しかった俺に一哉がクラスメイトに聞こえるように「旦那様」とか「奥様」って言ってたっけ。
それを聞いていた北内さんはすごく驚いていたな。
「まぁ、うん。そうだよ」
「……そっか」
北内さんは笑顔だったけど、どこか悲しいようにも見えた。
いつも集まるメンバー以外に「奥様」とか言われると変に照れくさくなるな。
「中筋君の奥様って、あの時合唱部の合同練習で、ここで一緒にお弁当を食べていた黒髪の凄く可愛いかった人?」
「まだ奥様じゃないんだけど、そうだよ」
「旦那様」や「奥様」は俺たちが言っているだけだ。今はまだ。
「……羨ましいな」
「え?」
北内さん、こういう彼氏彼女の関係が羨ましいのか。
でも北内さんも可愛いんだし、その気になればすぐに彼氏を見つけれそうだけど……。
「北内さんだったらすぐに彼氏、見つかるよ」
「そうじゃないの」
彼氏が欲しいと思って言った言葉を否定された。一体どういう意味だ?
首を傾げていたら、北内さんは続けて口を開いた。
「私が羨ましいって言ったのは、中筋君の彼女さんになの」
「え……?」
綾奈が羨ましい?さらにわからなくなってきた。
「中筋君に、これだけ愛してもらえて……」
「そ、それっ、て……」
いや、そんなまさか。
綾奈以外に俺のことを───
「中筋君。私、中筋君のこと……好き」
───好きになる人なんていない。
と、思っていたのに、突然北内さんから告白された。
「え?……本当に?」
「うん。この気持ちに嘘はないよ」
どうしよう。心臓が凄くバクバクしてる。
告白をされたのは人生でこれで二度目。でも、一体何故北内さんは俺なんかを……?
「なんで私が中筋君を好きなのか考えてる?」
「っ!?……うん」
俺の考えていることをピンポイントで当てられ、俺はビクッと身体を震わせた。
「顔が私のタイプっていうのもあるんだけど、中筋君って凄く優しいよね? ほとんど山根君と清水君と、あと二年の東雲先輩だっけ? その三人としか喋ってないからわかりにくいけど、あの三人と一緒にいる時の中筋君、凄く楽しそうな笑顔をしていてね、それで少しずつ中筋君を好きになったの。この人の懐に入る事が出来たら、私にもその笑顔を向けてくれて、私を好きになってくれるかもって思ってた」
「……そんなことないよ。俺は普通にしてるだけだし」
本当に特別な事はしていない。
「それが中筋君の普通なら、あなたは本当に優しい人だよ。……ただ、私が中筋君と出会うのが遅かっただけ」
「……」
「中筋君はこの高校に入った時には、彼女さんのことが好きだったんでしょ?」
「うん」
「私がチラチラ中筋君を見てるのにも気づかなかったくらいだもん。彼女さん一筋ってわかるよ」
「えっ、そうなの!?」
「うん」
北内さんって、俺のことチラチラ見ていたのか。そんなの全然知らなかった。
一哉や健太郎と話をしていない時は自分の席でラノベに集中していたからな……。
北内さんの気持ちは嬉しい。でも、俺はその気持ちに応えることは出来ないんだ。
「その……ごめん。北内さん」
「うん。わかってる。私も困らせることを言ってごめんなさい」
俺の答えに、北内さんも頭を下げた。
北内さんが謝ることなんて何もないのに。
「それに、もうほとんど吹っ切れてるから」
「そうなの?」
「うん。中筋君と彼女さん。初めて二人でいるところを見て、「あぁ、この二人はお互い凄く好き合ってるな」って思ってたし」
北内さんが俺たち二人揃ってるのを見たのって、やっぱり合同練習の時だよな?
あの時は付き合ってなくて、ただ隣同士で立っていただけなのに、それだけで両想いってわかるなんて……。
「そう、なんだ」
北内さんに何て言ったらいいかわからず、相槌しか返せない。
「だからそんな暗い顔しないで。私が中筋君のことを考えず、自分の初恋をちゃんと終わらせたくて勝手に言っただけなんだから。むしろそんなことを言われたんだから怒ってもいいと思うよ」
「いや、怒るわけないじゃん」
「あはは。だよね」
北内さんはからからと笑っている。
「だから、これからもクラスメイトとして……そして、友達として仲良くしてほしい」
「あぁ、もちろん」
「ありがとう」
そう言った北内さんはニカッと白い歯を見せてくれた。
その笑顔ははつらつとしていて、とても可愛らしかった。
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