第124話 綾奈に会いたい真人

 二人の祝勝会と称した打ち上げの翌週、俺が通う風見高校と綾奈が通う高崎高校は同時にテスト期間に入った。

 俺は学年十位以内、綾奈は学年一位という目標を掲げて、日々テスト勉強に精を出していた。

 そして金曜日の昼休み、俺は一哉と健太郎と三人で昼食をとっていた。

「綾奈に会いたい」

 ついそんな本音が出てしまった。

 綾奈とは毎日の登校で顔を合わせている。

 いつものT地路で綾奈と千佳さんと合流して、そのまま高崎の最寄り駅まで一緒に行っているのだけど、言ってしまえばそれだけだ。

 あの打ち上げの帰り、綾奈が公園の前で言っていたように、俺たちは登校以外で顔を合わせていない。

 放課後に一緒に勉強したりもしていない。

 綾奈曰く、「真人君と一緒だと集中出来ないから」だそうだ。

 確かにそれはわかる。俺だって綾奈と一緒に勉強しようものなら、綾奈の方に意識が向いてしまい勉強どころではなくなり、イチャイチャしてしまう自信が大いにある。

 そうなってしまうと、俺たちが目標としている所まではどうやっても届かないだろう。

 ちなみに今週に入って、綾奈とは電話もメッセージのやり取りもしていない。理由はさっきと同じだ。

「いや、お前ら毎日会ってるだろ」

 俺の言葉に一哉は平然とそう返した。

「会ってるんだけど、それだけなんだよ」

「付き合っていっぱいイチャイチャしてきたから毎朝の登校の時間だけでは足りないと?」

 なんでこいつはこうも的確に俺の考えを当ててくるのか。

「まぁ、そうだよ」

 俺はぶっきらぼうに答えた。

「と、言ってますが、付き合いだして一週間会わなかった健太郎さんは、今の発言を聞いてどう思いましたか?」

 一哉は拳を作り、それを健太郎に向けて言った。なんでインタビューみたいになってんだよ。

「あはは。それだけ真人が西蓮寺さんのことを好きな証拠だよ」

「まぁ、先週末のゲーセンで旦那様とか奥様とか言い合ってたもんな」

 やめて、それをここで掘り返さないで。……ほら、クラスメイトの何人かがこっちを見てるんだから。北内さんなんか何故かめっちゃびっくりしてるしさ。

「真人の気持ちはわかるよ。僕は今週から放課後は千佳さんと一緒に勉強してるから、今は真人達より一緒にいる時間が長いから、会えない時間が増えるのはやっぱり辛いよね」

「宮原さんもテスト勉強頑張ってるんだな」

「うん。このままだと冬休みは補習って言ってたから」

「……あはは」

 千佳さんらしいと思って苦笑した。

 千佳さんは中三の時に凄く勉強を頑張って高崎高校に合格したから、今も必死なんだろうな。

「てか、会えないからって電話出来ないわけじゃないだろ?」

 そう。会わないようにしただけで、電話やメッセージまで制限したわけではない。

 だからしようと思えばどっちも出来るのだが……。

「綾奈の勉強の邪魔になるかなって思ったら、出来ないんだよ」

 俺が電話やメッセージをする事で、綾奈のテス勉が滞ってしまっては申し訳ないと思い、俺からするのを躊躇っていた。

「西蓮寺さんも同じなんだろうな。お前ら、息ぴったりだもんな」

 息ぴったりと言われ嬉しくなる俺。単純すぎるだろ。

「でも我慢しすぎるとかえってストレスになると思うから、今日明日くらいに真人から電話してみてもいいんじゃないかな?」

「……邪魔になったりしないかな?」

 俺はそれが怖い。

「絶対邪魔になんてならないよ。むしろ西蓮寺さんも真人と連絡したいと思ってるだろうし。だから真人から連絡くれたら西蓮寺さんは絶対喜ぶよ」

 このまま連絡取り合わないでテスト勉強を続けても、効率が悪くなる一方だしな。仮に連絡して綾奈が嫌そうな感じだったら手短に切り上げたらいいか。

「わかった。夜にでも連絡してみるよ。ありがとう二人とも」

 健太郎はにっこりと、一哉は右の口の端を上げて笑った。

 そうして心が軽くなった俺は、昼食を食べ終えて自席に戻り、昼休みの残りの時間、単語帳とにらめっこをした。

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