第119話 中村圭介の本性
綾奈が危ないと感じた俺は、すぐさま二人の間に入った。
「……お前が西蓮寺の彼氏か?」
「え?」
こいつ、まさか俺の事を覚えていないのか?
まぁ、こいつは男子と女子で接する態度を変えるし、男子の顔と名前は一部の仲のいい奴しか覚えてなさそうだったしな。
それに、中学までの姿の俺しか知らなかったら、今のダイエットした俺の姿を見てもわからんだろうしな。
「そうだ。俺が綾奈の彼氏だ」
「ふーん。お前がねぇ……」
中村は俺を上から下までまるで値踏みするかのような視線で見てくる。そういえば、九月に高崎高校の最寄り駅で綾奈に言いよっていた男もこんな視線を向けてたな。
「……中村君、覚えてないの?」
俺の後ろにいた綾奈はいつの間にか俺の横に来て俺の手を握っていて、中村に驚きの視線を向けていた。
「どういう事だよ?西蓮寺」
「彼は、私たちの中学までの同級生の中筋真人君だよ」
「…………は?」
中村は心底驚いた表情をしている。俺は中村が俺を覚えてることに驚いた。
義務教育の九年間、中村と話したことはあまりなかったし、こいつがそこら辺の男子を覚えているわけないと思ったからだ。
「お前……中筋か?」
「ああ」
「お前と、西蓮寺が付き合ってる?」
「そうだけど」
さっき綾奈が言っていたことを聞いてくる中村。信じたくない気持ちもわからんでもない。中村みたいなイケメンが告白しても頑なに断ってきた綾奈が、俺みたいな奴と付き合ってると言われたら信じられない気持ちになるよな。
俺も綾奈の気持ちを知った時は似たような事を思ったよ。
中村は俺と綾奈を交互に見てくる。
しばらくすると、中村は「ははーん」と言いたげな、何かを理解したような表情になった。
「お前ら、付き合ってどれくらいだ?」
「一ヶ月くらいだ」
「一ヶ月か。……なら西蓮寺、そろそろいいんじゃないか?」
そろそろいい?一体何を言ってるんだ?
「なんのこと?」
綾奈も中村の言った言葉の意味がわからずに聞き返した。
「もう無理にこいつに付き合う必要はないって事だ。だって───」
この後に続く言葉を聞いた俺たちは、唖然とした。
「───西蓮寺は罰ゲームでこいつと付き合ってるんだろ?」
「「……は?」」
俺と綾奈は揃って同じリアクションをした。
罰ゲーム?こいつ、綾奈がそんな事をすると思ってるのか?
仮にも好きになって告白したんだろ?なぜ好きな人の事を平然とそんな風に言えるんだよ。
「……罰ゲーム?」
綾奈がまた聞き返した。
「だってそうだろ?痩せたとはいえ、こんな陰キャでキモいクソオタクと好き好んで付き合う奴なんているわけねぇじゃん」
「……陰キャで、キモい、クソオタク?」
「!」
綾奈が首を傾げながら中村の発言を繰り返した。
その声を聞いた時、俺は寒気を感じた。明らかにいつもの声じゃない。もっと暗くて低い声……そして綾奈の目から光が失われつつある。
「中筋。お前は西蓮寺が罰ゲームでお前と仕方なく付き合っただけだって気づかなかったのか? お前みたいに勉強も運動も出来ない最底辺で気持ち悪いオタク野郎の事を、西蓮寺の様な美少女が本気で好きになるわけないってわからないのか? わかるわけねぇか。お前みたいなバカは、西蓮寺が自分と付き合ってくれたって舞い上がって、そんな事考えつくわけないもんな」
中村は饒舌にそう言い放ち、ゲラゲラと品のない笑いをしている。
綾奈がいるっていうのに、こいつは当時と変わらない男子に向ける視線と言葉で俺を全力で見下してくる。
こんな性格でよくいじめに関する劇で主役をやれたな。
「…………わかってないのは、あなたの方じゃない」
「綾奈?……痛っつ!」
綾奈は俯いてボソッと何かを呟いたと思ったら、綾奈の手を握っている俺の手に痛みが走った。
何事かと見てみると、綾奈は目一杯手に力を込めて握っていた。
「西蓮寺。これ以上無理にそんな奴と付き合う必要はないだろ?そんな奴とはもう別れて、やっぱり俺と付き合えよ」
この時俺は、先週始めに美奈が言っていた言葉を思い出した。
確か中村には彼女がいたはず。それなのにこいつは綾奈と付き合おうと言ってるのか?
「ちょ、ちょっと待て中村!お前、彼女いるんじゃないのか?先週月曜の放課後、お前が彼女と一緒にこのアーケード内の本屋で見たって聞いたぞ」
「あー、あいつな。んなもんとっくに別れたに決まってんだろ」
「別れたって……」
「まぁ、顔は好みじゃなかったがスタイルが良くてな。あの時も本屋に行った後にヤッたんだが飽きたから別れた」
「お前……綾奈もその彼女と一緒ですぐ捨てるんじゃないのか!?」
「西蓮寺は大事にするさ。こんな美少女滅多にいないしな。心配すんな。俺が西蓮寺のこと、身も心も満足させてやるから。だからお前は早くここから消えろよ」
こいつ、絶対綾奈を大事にするわけが無い!
どう考えても綾奈の身体目当てとしか思えない。こんな奴に綾奈は絶対に渡さない!
「ふざけ───」
「……中村君。さっき真人君に言ったこと、あれは本心で言ってるの?」
俺が叫ぼうとした瞬間、俯いたままの綾奈が低い声で言った。さらに迫力が増している。
「当たり前だろ。そんな奴と付き合うより俺の方が絶対西蓮寺を満足させられる。身も、心もな」
遠回しにゲスい事を言っている。身は自分の男女の営み的な経験値を活かして満足させる気だ。
そして心もなんて言ってるけど、絶対に束縛して自由を与えない気だ。
「…………中村君の言いたいことはよくわかったよ。……真人君、ごめん」
そう言って、綾奈は俺から手を離した。
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