第118話 望まぬ再会

 その後も色んなゲームで遊んだ俺たちは、自販機が設置されている休憩所に移動した。

 このゲーセンには自販機は二箇所あって、一箇所はここ、もう一箇所はトイレ前にある。

 ラインナップが違うので、どれを飲むか毎回少し悩む。

 綾奈はお花を摘みに行ったので、さっき俺が取った猫のぬいぐるみの「あーちゃん」は俺が抱えている。

「綾奈遅いな」

 しかし、十分以上経っても綾奈が戻ってくる気配がないので、「まさか、ナンパされているのでは!?」と心配になった俺は、「あーちゃん」を千佳さんに預けてトイレに向かった。

 トイレ前で綾奈の姿を見つけた。

 だが、傍には男がいて綾奈は困っている表情をしていた。

 やっぱりナンパにあっていたと思った俺は、すぐさま綾奈を助けるべく駆け寄っていこうとして、足を止めた。

「あいつは……」

 綾奈をナンパしている男に見覚えがある。

 俺より高い身長、髪は少し長めだが整えられていて悪い印象を与えない、端正な顔立ちで健太郎と同レベかそれ以上のイケメン。体型は細身で、今は着込んでいるのでわからないが、去年と同じで相変わらずバスケで鍛えられている肉体を維持しているのだろう。

「中村……」

 出来れば会いたくなかった奴、中村圭介を見て、俺は苦虫を噛み潰したような表情をした後、綾奈を助けるために駆け出した。


 私は今、真人君とよく行くゲームセンターのトイレに向かっているのだけど、今日はすごく楽しい。

 私とちぃちゃんが合唱コンクール全国大会で金賞を獲得した祝勝会で来ている。

 ここに入ってからはそれぞれのパートナーと三組に別れて楽しむようにして、私は真人君といつもの様にエアホッケーを楽しんだ。

 前回は私が勝ったけど、今日は隙をつかれて僅差で負けて不貞腐れた感を出してしまったけど、実はあまり勝ち負けにはこだわっていない。私にとっては勝負よりも真人君と一緒に何かをするといった事が何よりも大切だから。

 エアホッケー対決の後、真人君とプリを撮りたいとお願いしたら、真人君は快く了承してくれた。

 単純に真人君と撮りたかったっていうのと、思えば私たちってツーショット写真をあまり持ってなかったなと思ったから。

 二人で色んなポーズで撮影した。真人君が私の肩を抱いてくれてドキッとした。

 普段よく抱きついてるけど、ああやって肩を抱かれることはあまりなかったし、優しく自分の方へ引き寄せてくれるのが……思い出したらまたドキドキしちゃう。

 それから、真人君とキスしてるプリを撮りたかったから思い切ってしちゃった。

 真人君はやっぱり驚いていたど、特に嫌そうにしてなかったから安心した。

 そうしてプリントされた私たちのツーショット写真を見ると顔がにやけちゃう。

 真人君との思い出、そして私の宝物がまた増えた。

 ちぃちゃん達と合流して、茜さん達がいるクレーンゲームコーナーへ向かうと、まぁくんと同じ猫のぬいぐるみがあった。

 私は無意識で「まぁくん」って言ってしまったっぽくて、聞かれてちょっと恥ずかしかった。

 真人君はまぁくんと同じぬいぐるみの隣に、女の子の猫のぬいぐるみを見つけて、それを取ってくれて私に手渡してくれた。

「まぁくんにも恋人を作ってあげようと思って」って言ってくれる真人君はやっぱり優しい。

 私は真人君から受け取ったぬいぐるみに「あーちゃん」と名付けた。

 これからよろしくね。あーちゃん。

 まぁくん。素敵な恋人を連れて帰るから楽しみにしててね。


「西蓮寺?」

 トイレから出て、みんなの所に戻ろうとしたら、私を呼ぶ声が聞こえた。

 この声、聞き覚えがある。

 去年何度もこの声を聞いて、この声の主と一緒に生徒会活動をしていた。

 私は声がした方へ向き、彼の名を呼んだ。

「中村君」

 去年、中学で生徒会長をつとめていた中村圭介君は、私に近づいてきた。

「久しぶりだね西蓮寺。中学の卒業式以来か?」

 彼の顔は相変わらず整っていて、身長も高い。

 でも、それ以上の感想は湧かなかった。早くみんなの、真人君の所に戻りたいといった気持ちが強く出ていた。

「そうだね。本当に久しぶり」

「でも珍しいな。西蓮寺がゲーセンに来るなんて」

 中村君は話を続けてきた。ちょっと長くなりそうだな。

「最近よくここに来るようになったんだよ」

「……今日は宮原も一緒に?」

「そうだよ」

 私がちぃちゃんと一緒と言うと、中村君は少し引きつった表情になった。本当にあの時何をしたのちぃちゃん。

「宮原と二人で来たのか?」

「ううん。ちぃちゃんと、仲のいい友達と、それから……彼氏と」

「えっ……!?」

 突然中村君がすごく驚いた声を出した。

「西蓮寺……彼氏、いるのか?」

「う、うん。……いるよ」

「…………俺じゃあ、ダメだったのか?」

「え?」

 そう言うと、中村君は私との距離を詰めてきて、私は中村君が近づいてきた分距離を取った。

「……中村君?」

「あの時俺が何度告白しても、西蓮寺は一度も首を縦に振ってくれなかった。なのに今は他の男と付き合ってるとか、どうしてだよ?」

「あ、あの……」

「この辺りに俺以上の男がいるとは思えないし、一体どこのどいつな───」

「綾奈!」

 中村君の言葉を遮って、真人君が私の名前を呼んで中村君との間に入った。

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