第117話 さらに増える宝物
俺たちがやってきたのは音ゲーエリアだ。
「確かここには健太郎達がいるはずだけど……いた」
ある筐体の所で健太郎と千佳さんの姿を見つけた。
健太郎がゲームをプレイして、千佳さんがそれを見ている。
「ちぃちゃん、驚いた顔してるけどどうしたの?」
「あぁ、綾奈に真人。いや、あれ見てみなよ」
千佳さんは健太郎を指さしているので、俺と綾奈は健太郎がプレイしている様子を見た。
「すごっ!」
「へ?こ、これ、どうなってるの?」
俺と綾奈は驚きの声を漏らした。
健太郎のプレイしている音ゲーは、ノーツが上から降ってくるタイプのゲームだ。
ただ、そのノーツスピードが異様なまでに早く、落ちてくる量も尋常じゃないくらい多い。
それなのに健太郎は一つのミスもなくどんどんとコンボ数を増やしていく。
「清水君の手、何本もあるように見える」
綾奈の言う通り、ノーツスピードが早くノーツの量も多いので、健太郎の手の動きもものすごく速い。
残像が見えるんじゃないかってくらい早いので、俺はただただ口を開けて健太郎のプレイを食い入るように見ていた。
結果はフルコンボ、コンボ数は軽く千を超えていた。
リザルトを見ると、一個だけGREAT判定で、残りは全てPERFECT判定だった。あと少しの所でオールパーフェクトを逃す結果となったが、普通に凄い。美奈よりも上手いぞ。
「おつかれ健太郎」
「ありがとう千佳さん。真人と西連寺さんも来たんだ」
「凄かったよ清水君。手の動き、あれどうやってるの?」
「まぁ、慣れだよ」
確かに、あれは一朝一夕で習得出来るものではない。
多分健太郎はこのゲームをかなりプレイしているのと、持ち前のゲームセンスも相まってこれだけのスコアを叩き出せるのだろう。
俺にはとても真似出来ない。
「茜センパイと山根は確かクレーンゲームに行くって言ってたっけ?」
「確か。行ってみよっか?」
「健太郎、もう音ゲーはいいのか?」
「うん。それに僕ばかり楽しんだら千佳さんに申し訳ないし」
「あたしは別に、あんたのゲームしてるところを見るのも楽しいけどね」
「ありがとう千佳さん」
この二人、本当に仲良いよな。
「じゃあクレーンゲームの所に行こう。綾奈」
俺は綾奈の名前を呼び、手を差し出した。
「うんっ!」
綾奈はその手を喜んで握ってくれて、俺たち四人は一哉たちのいるクレーンゲームコーナーへ向かった。
「カズくん、そこそこ!いい調子」
「よし掴んだ!そのまま……あぁ~!」
クレーンゲームのコーナーに行くと、一哉と茜の声が聞こえてきた。どうやらかなり熱中しているようだ。
「二人とも、調子はどうだ?」
「あ、みんな。それが全然」
「まぁ、俺も茜も普段ゲーセンに来ないからな」
この二人はこうやってゲーセンに足を運ぶ事はあまりない。
アーケードに来ると、書店やカラオケを利用する方が圧倒的に多いそうだ。
「しかし、改めて見ると、色んなプライズがあるな」
軽く見渡してみても、アニメキャラのフィギュアやぬいぐるみ、キーホルダーやお菓子、おもちゃ等、様々な景品がある。
「あ、まぁくん」
綾奈の口から、聞き慣れないワードが出てきた。
綾奈が見ている景品を見ると、そこには初めて綾奈とここに来た時にゲットして綾奈にプレゼントした猫のぬいぐるみがあった。
綾奈はあのぬいぐるみに名前をつけたのか。何それ可愛い。
「綾奈、まぁくんって?」
聞き慣れない単語に千佳さんが思わず聞き返した。
「へっ!?わ、私、口に出してた?」
「うん。思いっきり」
どうやら無意識で言ってしまったようだ。
「あぅ……恥ずかしい。えっと、まぁくんっていうのは……」
綾奈はまぁくんについて顔を赤くしながら説明した。
そういえば、あのぬいぐるみの名前、聞いてなかったな。そもそも名前をつけてくれているのさえ知らなかった。
「へぇ、やるじゃん真人」
「いやぁ、あの時は綾奈の笑顔が見たくてめっちゃ頑張ったよ」
「真人君……ありがとう」
綾奈が満面の笑みを見せてくれた。何度見ても可愛いしかない。
ふと、まぁくんと同じぬいぐるみが入っている筐体を見ると、その隣には同じ猫のメスのぬいぐるみがあった。
それを見て、俺は財布から五百円玉を取り出し、筐体に投入した。
「真人君?」
「いや、メスの猫のぬいぐるみがあったから取ろうかなって」
「ほんとだ。……可愛い」
「その「まぁくん」にも、恋人を作ってあげようと思ってね」
「真人君……頑張って」
「うん」
綾奈からの声援を貰い、俄然やる気が出てきた。
俺は慎重に、少しずつアームで猫のぬいぐるみを穴に近づけていく。
五百円で出来る回数で取れなかったので、もう五百円を投入する。
さっきの五百円分でだいぶ穴の近くに寄せることが出来た。いける!
俺はボタンを押す指と、アームを見る目に全神経を集中する。
そして十回目のチャレンジで、見事ぬいぐるみを落とすことが出来た。
「やった!」
「すごい!」
俺は取り出し口からぬいぐるみを拾って、綾奈に手渡す。
「……!」
綾奈はそのぬいぐるみを見て目をキラキラさせている。
「ありがとう真人君!」
「どういたしまして」
そうして俺たちは笑いあった。
「まーた二人の世界に入ってるよ」
「あはは。微笑ましいよね」
「ま、これがこいつらのいつもの事だし」
「最近この光景を見ると安心するようになってきたよ」
近くで四人の声が聞こえるけど、ここでつっこむのも野暮なので聞こえないふりをした。
「これからよろしくね。あーちゃん」
綾奈が早速ぬいぐるみに名前を付けていた。
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