第116話 甘々な初プリクラ

 ドゥー・ボヌールを後にして、俺たちはアーケードの中にあるゲーセンに入った。

 自動ドアを潜ると、凄くガタイのいい店員さんが近くにいた。

「いらっしゃいま……やぁ、中筋君、西連寺さん。いらっしゃい」

 このゲーセンの店長、磯浦いそうら颯人はやとさんだ。

 高校、大学とラグビーをやっていたらしく、その肉体は今も健在だ。

「こんにちは店長」

「今日も遊んでいきますね」

「相変わらず仲良いね二人共。お友達も楽しんでいってね」

 なぜ俺と綾奈がここの店長と知り合いなのか、理由は俺たちが初めて一緒にこのゲーセンに来てエアホッケー対決をして以来、たまにここに来てはエアホッケーをはじめ色んなゲームを楽しんでいて、それで店長の磯浦さんが俺達のことを認識して話しかけてくれて仲良くなったのだ。

 強面だけど、すごく優しい店長だ。

 ここからは各カップルで別れて楽しむことにした。

 一哉と茜はクレーンゲーム、健太郎と千佳さんは音ゲーエリア、そして俺と綾奈は……。

「やっぱりこれだろ」

「うん!」

 当然ながらエアホッケーだ。

 このゲームは体力を使うから、さっきケーキ食べたから腹ごなしには最適だ。

 お互いにマレットを持ち構える。今回は綾奈からのサーブで始まる。

「今日も勝たせてもらうからね。真人君」

「そう何度も負けないよ。綾奈!」

 こうして、もう何度目かわからない俺と綾奈のエアホッケー対決が始まった。


「今回は俺の勝ちだね」

「むぅ~、あそこで逆転されるなんて」

 今回は三対二で俺が辛くも勝利した。

 咄嗟に綾奈の隙をついて壁にバウンドさせて決まったのが決勝点となり勝ちをおさめた。

「でも、やっぱり勝ち負け度外視して綾奈とのホッケー対決は面白いよ」

「私も。すごく楽しい」

 俺たちはお互い笑いあった。

「テスト期間前だからしっかり遊んどかないとね」

「うん」

 綾奈は俺の腕に抱きついてきた。

「ねぇ、真人君。……プリ、撮りたいな」

 綾奈が上目遣いで言ってきてドキリとする。

「プリクラ?」

「うん。ここには何度も来てるのに、未だに二人のプリ撮ってないなって思って」

「確かに」

 言われてみれば、俺たちは二人だけのプリクラを撮ったことは無い。

 プリクラに限らず、ツーショット写真もあまり撮ってないことに今更ながらに気づく。

 綾奈は俺に告白してくれた時、『あなたといた時間の全てが、私のかけがえのない大切な宝物』って言ってくれて、今でも鮮明に思い出せる。

 でも、やっぱりプリクラや写真を撮って、その思い出を永遠に形に刻むのも良いとも思った。

「じゃあ、プリクラ撮ろっか」

「うんっ!」

 綾奈は満面の笑みを見せてくれて、俺の腕に抱きついたまま、二人で移動を開始した。綾奈の決して小さくない胸の感触にドキドキしたりしてないし、歩きにくいなんて思ってないよ?


 俺たちは数台あるプリ機の一つに入った。

 お金を入れて、フレームを選択するんだけど、若い女性をメインターゲットにしているだけあって、そのほとんどが可愛いものやファンシーなものばかりだった。

 俺は専門外なので、ここら辺のチョイスは綾奈に一任した。

 綾奈は慣れた手つきでパネルを操作している。多分千佳さんとよく遊びに行って、頻繁にプリクラを撮ってるんだろうな。

 程なくして綾奈が設定をし終えて、いよいよ撮影が始まる。初めてだから少し緊張する。

 最初はお互いピースサインで撮って、その後は猫のポーズをしたり、綾奈が俺に抱きついたり、俺が綾奈の肩を抱いて、綾奈が俺の肩にこてん、と自分の顔を乗せてきたりと、恋人っぽいポーズも何枚か撮った。

 そして次がいよいよ最後の一枚。どんなポーズにするか内心で考えていると、綾奈が俺を呼んだ。

「ね、ねぇ、真人君」

「ん?」

「……こっちに身体をむけてもらえるかな?」

「え? わかった」

『三───』

 綾奈のお願いの後、撮影のカウントダウンが始まった。

 俺は言われた通り、身体ごと綾奈の方を向く。カメラの横を向いている状態だ。

『二───』

「こう?」

「うん。ありがとう」

 そうお礼を言って、綾奈も身体ごと俺の正面を向く。カメラには横を向いた俺たちのが写っている。

『一───』

 綾奈は自分の顔を俺の顔に近づけてきた。

「!?」

 パシャ!

 シャッター音が鳴り、フラッシュが起こった。

 俺たちがキスをしている瞬間がバッチリ撮影された。綾奈は頬を赤らめながらもその表情は笑顔でものすごく可愛いが、一方の俺は突然の事で、驚いて目を見開いていた。

「あ、綾奈!?」

「真人君とキスプリ、してみたかったから……ダメだった?」

 上目遣いで言われると反論出来なくなる。いや、そもそも反論なんてしないし、びっくりしただけで嬉しかった。

「ダメじゃないよ」

「えへへ~。ありがとう真人君!」

 顔が赤いまま、ふにゃふにゃした笑顔でそんな事を言われたら何も言えなくなってしまう。

 俺は笑顔で軽く鼻から息を出すと、綾奈の頭を優しく撫でた。

 ここで「彼氏」ではなく俺の名前を出したのが、「俺とじゃなきゃダメ」感が出て、顔がニヤけそうになる。

 編集タイムに移って、綾奈はペンで文字を書いたりスタンプを置いたりしている。この作業も手慣れていた。

 編集を終えて、筐体の外でしばらく待っていると、カコンという音と共にシールが出てきた。

 それを綾奈が手に取り、近くに備え付けてあったハサミで丁寧に半分に切っていく。

「はい、真人君」

 綾奈が俺に半分ずつに切ったシールの片方を渡してきたので、俺は笑顔で受け取る。

 顔の加工はしてなくて、スタンプと文字で編集されたシール。

 文字は「初プリ」、「大好き」、「ずっと一緒」等、甘々な文言が書かれていた。

 人生初のプリクラが愛してやまない綾奈と撮れるなんて。

 それを見て俺の口角は上がっていった。

「また、思い出が出来たね」

「うん。それに、宝物も増えた」

 綾奈はシールで口を隠し、頬を赤らめにっこりと微笑んだ。その表情と仕草が可愛すぎて、見たいけど見れない。マンガだとエフェクトで「♡」が出てそうだ。

 これで二人きりなら絶対に綾奈を抱きしめているな。

「みんなの様子を見に行こうか」

「うん。行こっ、真人君」

 こうして俺たちは手を繋いで移動を開始した。

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