第115話 綾奈の義兄、松木翔太
翌日の土曜日。
この日は合唱コンクール全国大会で金賞を取った二人の祝勝会で、綾奈のお姉さんの麻里奈さんの旦那さんである、
「すっご!めっちゃオシャレだね」
店の外観を見た茜が感想を口にした。俺も茜の感想に同意だ。
駅から少し離れた所にあるこの店は、女性に大人気で、店長の翔太さんが作るケーキはどれも絶品と評されていて、地元のローカルニュースで特集が組まれるほどだ。
それだけではなく、翔太さんがかなりのイケメンで、翔太さん目当てで来店する若い女性客が後を立たないんだとか。
俺はまだ翔太さんの顔を見たことがないんだけど、話だけ聞いてるとそこらのアイドルより人気があるように思えた。
そして店の外観はオシャレで、白と赤で統一されていてショートケーキを思い浮かべてしまった。
入ったらショートケーキを一番に注文しよう。
そんな事を考えながら、俺たち六人は店内へ入った。
「うわぁ~」
店内もオシャレな作りになっていた。
外観と一緒で店内も白や赤色なのかと思いきや、落ち着いた感じのウッド調の色で、出入口正面にレジとケーキが入ったショーケース、その奥にはスタッフさんの作業スペースがある。
その右にはテーブルと椅子が十数個あり、注文したケーキをそこで食べるようだ。
店内には既に何組かのお客さんがいて、その九割が女性のお客さんだ。
もちろんテイクアウトも出来るので、今度寄って美奈と母さんに買っていこう。ちなみに父さんは甘いものが苦手だ。
「やぁ、いらっしゃい」
俺たちに声をかけた男性の店員を見ると、上が白色でズボンが黒色の制服を着ていて、腰にはエプロンを付けている。
そして顔は甘いマスクにオシャレなメガネ、少し赤みがかった短髪を整髪料でいい感じに逆立たせている、誰が見てもイケメンな店員が立っていた。まさかこの人が……。
「こんにちは。お
「いらっしゃい綾奈ちゃん、千佳ちゃん、それに初めましての皆さん。綾奈ちゃんの義理の兄で、ここ、ドゥー・ボヌールの店長、松木翔太です」
翔太さんはにっこりと微笑んでくれた。いや、マジでイケメンすぎて眩しい。
なんかケーキを食べていた何人かから黄色い歓声が聞こえてくるんだけど。
俺たち風見高校の四人もそれぞれ自己紹介をしたけど、俺が名乗ると翔太さんは俺をまじまじと見てきた。
「君が綾奈ちゃんがずっと好きって言っていた真人君か……」
イケメンに品定めされてる感がすごい。あと、綾奈は翔太さんにも俺のこと話してたのか。
しばらく俺を見ていた翔太さんは、またにっこりとした笑顔を見せてくれた。
「うん。綾奈ちゃんや麻里奈が言っていた通り、真面目な子みたいで安心したよ。これからよろしくね、真人君」
「は、はい!」
翔太さんが握手を求めてきたので俺も慌てて右手をズボンで擦ってから翔太さんの手を握った。
「皆、今日は来てくれてありがとう。ゆっくりしていってね」
そう言って翔太さんは奥に入っていった。
俺たちはそれぞれケーキを注文して席に着いた。
「てか、翔太さん凄いイケメンだったね!」
茜のテンションが高い。
確かにあのレベルのイケメンにはそうそうお目にかかれるものではないので、その気持ちはわかる。
「確かに、あれは男でも見惚れるレベルだ」
一哉も納得する。
「うん。他のお客さんも翔太さんを見てる人いっぱいだし」
「あたしは何度か見てるけど、いつ来てもここはこんな感じだよ」
健太郎の感想に千佳さんが補足してくれる。
「でも、これだけ人気なら相当モテてるはずだよね?麻里奈さん、よく翔太さんを射止めたね」
まさに超絶イケメンと超絶美人の夫婦。二人が並ぶだけで映えるだろうな。
「お姉ちゃんがお義兄さんを家に連れてきた時は家族みんなびっくりしたよ」
綾奈が言う。
ここで気になってるのが、麻里奈さんと翔太さんの馴れ初めだ。綾奈は知ってるかな?
「綾奈、二人はどうやって出会ったの?」
「えっと、確か……」
「知りたい?」
綾奈が二人の馴れ初めを思い出していると、ケーキを持ってきた女性の店員さんがそんな事を言ってきた。というか、この声、すごく聞き覚えが……。
そう思い、店員さんの顔を見たら、まさかの麻里奈さんだった。
「ま、麻里奈さん!?何してるんですか?」
「みんな、いらっしゃい。何って、お手伝いよ真人君」
いつものスーツ姿ではなく、ここの制服に身を包んでいる麻里奈さん。はっきりいってめちゃくちゃ似合っている。
すると翔太さんもやって来た。
「麻里奈は土日のお客さんが多い時間帯は、たまにこうしてお手伝いをしてくれてるんだ。僕もすごく助かってるよ」
「あら、愛する夫の手助けをするのは妻として当然のことよ?」
「ありがとう麻里奈」
めちゃくちゃラブラブだこの夫婦。
二人のやり取りを見ていたお客さんから、先程よりさらに大きな黄色い歓声が上がる。
その声には嫉妬の感情はなく、ただただ美男美女夫婦のラブラブっぷりを堪能してる感じだ。
「はいはーい。翔太さんと松木先生の馴れ初めってどうだったんですか?」
茜が手を挙げて元気よく質問した。やはり女子だけあってこの手の話は興味津々だ。
「私が大学生だった時にね、こっちに帰ってきたらこのお店が出来てて、入ったら翔太さんが笑顔で出迎えてくれて、それで雷に打たれたような強い衝撃が身体中に走って……一目惚れだったわ」
あの麻里奈さんが一目惚れ!?
「あの時は僕も「綺麗な子が来店したなー」って感じで接客してたんだけど、それから麻里奈がよくここに来るようになってね。それで話してるうちに僕も麻里奈の事が気になりだして、思い切ってデートに誘ったら快諾してくれて、それから何回かデートを重ねた末に僕から告白して付き合いだしたんだよ」
「あの時デートに誘ってくれた時は本当に嬉しくて舞い上がってたわ。今でもいい思い出よ」
「僕もだよ」
あ、これ二人の世界に入った感じじゃないか?
多分これがこの二人の普通のやり取りなんだろうな。美男美女夫婦のイチャイチャは目の保養になる。
それから麻里奈さんは「でも」と言って話を切り出した。
「今の姿からは想像出来ないかもしれないけど、翔太さん、これでも昔はかなりやんちゃしてたみたいよ」
「そうなんですか?」
「ええ。だから翔太さんを本気で怒らすのはやめなさいね」
マジか。人は見かけによらないな。
どんな風に怒るのかわからないけど、少なくとも麻里奈さんの忠告は素直に聞いておくのが良さそうだ。
「ま、麻里奈。それはあまり言わないで」
隣で暴露された翔太さんはかなり恥ずかしそうだ。
麻里奈さんはイタズラっぽい笑顔をしてるし、麻里奈さんは普段はしっかりしている先生なのに、私生活では結構お茶目な所があるのでそのギャップが可愛かったりする。
そこから二人は仕事に戻って行った。
俺たちはケーキに舌鼓を打ちながら談笑して楽しい時間を過ごした。
ちなみに俺はショートケーキとモンブランを注文していた。
ダイエットを始めてから、ケーキはほとんど食べて来なかったので、一度に二個も食べるのは本当に久しぶりだ。
今日くらい、いいよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます