第98話 そして昼休み……

 そして昼休み、学食に集まった俺たち四人は席を確保し、俺と一哉はそれぞれカツ丼を注文して席に戻った。

 ちなみに茜と健太郎はコンビニで買ったパンを持参していた。茜は部活もあるのにそれだけで足りるのか?

「茜、それで足りる?」

「ん? あぁ、もっとあるよ」

 そう言って、茜は持っていた小さなカバンから数種類のパンと野菜ジュースを取り出した。ちゃんと野菜も取ろうとしてるから偉い。

「いざとなったらカズ君のカツ丼も分けてもらうつもりだから」

「え? 茜って大食いキャラだっけ?」

「いやー、最近部活キツくて……お昼にしっかり食べとかないと晩御飯までもたないんだよねー」

 苦笑しながら茜は言った。

 茜はバレー部だけど、そんなにキツイのか。確かに運動量凄そうだよな。

 これだけ食べて太らないというのは、それだけ茜が真剣に取り組んでいるからだろうな。

「その栄養をもう少し女性的な部分に行き渡ったらな……」

「ちょっとカズ君!それセクハラだから!」

「あぁ……」

 一哉の言葉につい茜の胸部に目が行ってしまった。

 茜は細身で、かなりのスレンダー体型だ。だがそれ故に女性的な部分が目立っていない。

「真人も納得しないでよ!」

 茜は頬を膨らませて俺を睨んできた。咄嗟に出てしまったとはいえ、確かに俺が悪いな。

「ごめんなさい」

「てか、そんなことはどうでもいいの!私が気になるのは真人と綾奈ちゃんのことなんだから!」

 茜が話題の軌道修正をしてきた。うまくいけばその話題をしなくて済むかと思ったけどそううまくはいかないようだ。

「俺と綾奈のことって……何を聞きたいんだよ?」

「それよ!」

「いやどれだよ」

 マジでわからん。もっと具体的に主語をつけて話してくれませんかね先輩。

「あんたいつの間に綾奈ちゃんを呼び捨てするようになったの!?」

 茜は自分がかじったパンを俺に向け、テンション高めに言ってきた。いや、熱くなるのはいいんだけど行儀よ……。

「確かにな。全国大会の日、俺は真人と一緒に西蓮寺さん達を駅で見送ったけど、その時はまだ「綾奈さん」って呼んでたもんな。こりゃあ、一昨日の看病から今までの間に何かあったに違いないな」

 一哉はニヤリと笑みを浮かべ、一切れのトンカツ(一口かじっている)を箸でつまみ、それを俺に向けて言った。推理している探偵か何かかよ。似たものカップルめ。

「あんまり根掘り葉掘り聞くのはどうかと思うけど、僕もそのあたりは気になるから、真人さえよければ教えてほしいな」

 健太郎も一哉に賛同している。何気に健太郎の言葉が一番断りづらいんだよな。

 まぁ、この三人なら特に隠すようなことでもないし、それに今隠してもいずれどこかでバレるから、どちらにしろ隠すことにあまり意味はないんだよな。

「わかったよ。実は昨日───」

 ということで、俺は昨日と一昨日の事を簡単に話した……キスの件は隠して。

「なるほどなぁ、やっと決心がついたわけだ」

 一哉がうんうんと頷きながら言った。カツ丼は俺が喋っている間にかきこんだのでもうない。

 一哉のカラになった丼を見て茜が残念そうにしている。マジでカツ丼も食うつもりだったのか。

「随分待たせてしまって申し訳ないと思ってるよ」

「で、そのままキスしたわけだ」

「「はっ!?」」

 俺と茜の声がハモった。それと同時に俺は一哉を、そして茜は俺の方に勢いよく首を回した。

 いや、なんで一哉がキスしたことを知ってるんだ?昨日の事は誰にも言ってないし、知る手段がないはずなんだが……え、本当にどうして……?

「やっぱりな」

「は? やっぱりって…………あっ」

 しまった。一哉の奴、カマかけやがったな!?

 俺のリアクションに一哉はくつくつと笑っている。

「え!? マジで!? 真人、ついにキスしたの!?」

「声が大きいって茜!」

 茜の大声に反応して、近くにいた生徒達が俺を見てくる。うわぁ……恥ずかしいな。

「やったね真人」

「まぁ、そうだな」

 まさかこんなにあっさりとバレてしまうとは……こんなことなら自分から喋った方が良かったな。

「それで、どうやってキスしたの!?」

「いや、最初は綾奈からだけど……」

「綾奈ちゃんから!?」

「あ……」

 しまった。キスしたのがバレて警戒が散漫になってつい口から出てしまった。

 俺の言葉を聞いた茜は驚愕の声を上げ、一哉と健太郎も口を開けてぽかんとしていた。

「まさか、西蓮寺さんからしたのは予想出来なかったな」

「うん。西蓮寺さんって意外と大胆なんだね」

「そういや、大会前の見送りでも、人前で真人に抱きしめてもらいたそうにしてて、実際にハグしてたから、それを考えたら納得かもな」

 あーこれはマズい。こいつらの口から綾奈の耳に入ったら、綾奈は絶対に照れて顔を真っ赤にして怒ってくるな。そんな顔も可愛いんだけどやっぱり申し訳ないな。

「あの、皆さん。是非とも綾奈にはご内密に……」

 俺はなんとか綾奈に伝わらないようにするために、下手したてに出ようとテーブルに両手をつきこうべを垂れた。

「「「善処するよ」」」

 三人から返ってきたのはそんな返事だった。

 綾奈、本当にごめん。

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