第96話 無意識の自白

「真人君……」

 私は高崎高校の最寄り駅のホームで、さっき出発した電車をじっと見ていた。

 電車はだんだんとスピードを上げていき、もう見えなくなってしまったけど、それでもじっと見つめていた。

「ほら綾奈、ここにいたら邪魔になるし、遅刻するから行くよ」

「……うん」

 ちぃちゃんに促され、私は力なく返事をして、私とちぃちゃんは改札を抜け駅の構内へと入る。

 ちぃちゃんと構内を歩いているけど、私の心の中は、ある一つの感情が支配していた。

 寂しい……。

 なんで……? 毎朝真人君とここまで登校していていつもここで別れる。確かに別れる時は少し寂しいって思うけどここまでじゃない。今日は本当に寂しい。

 昨日は真人君の家でデートをして、すごく真人君にベッタリだったから、それもあってこんなにも寂しい気持ちが溢れてしまうのだろうか?

 真人君の家に行って、ゲームをしたり、その時に真人君の身体を背もたれみたいにして座ったり、ゲームの後も真人君に膝枕したり、ゲームをする前にも真人君に抱きついてすごく甘えたり、それに……何より……キスもして……。

「昨日真人とキスしてどうだった?」

「うん……とても、幸せだった」

 昨日は玄関で二度、真人君の部屋で三度……頬のもカウントしたら四度か。そして私の家まで送ってくれた時、その別れ際にも一度した。昨日初めてキスしたのに、気づけば昨日だけでけっこうな回数しちゃってる……。

 でも、全然嫌じゃなかった。むしろ…………。

 キスをする前、あれだけ怖いと思っていたのが嘘みたい……。

 真人君とキスをした時、すごく心臓がドキドキしたんだけど、それと同時に、今まで感じたことのない幸福感に身体全体が包まれるような感覚になった。

 キスする前も、真人君から何度も好きって感情を貰ってきたのに、それでも十分すぎるほど幸せだったのに、キスをしたら、今までの比じゃないくらい、好きの感情が私の心を満たしていった。

 まるで私に無尽蔵に注がれるような感じ……昨日の真人君の「愛してる」って言葉も合わさって、好きな人にこれほどまで愛されて、幸せすぎて死んじゃうんじゃないかってくらい幸せだった、

 好きな人とキスをするのって、こういう感覚なんだ。

 私は無意識に自分の唇を指で触る。

「やっぱり真人とキスしたんじゃん」

「うん…………へ?」

 ちぃちゃんの声で私は我に返った。ちぃちゃんを見ると、にやにやした笑みを浮かべてじっと私を見ていた。あれ? 私、何を言ったんだろう……?

「やっぱり無意識だったんだね。あんたさっきあたしの質問に対して真人とキスしたって自白してたよ」

「う、嘘!?」

 ちぃちゃん、私になんて言ったんだろう? それすら記憶にない。

「まぁ、あたしが聞かなくてもさっきの綾奈の表情と仕草でキスしたんだってモロバレだったけどね」

 え? え? 私、さっき何したの?というか、いつの間にか外に出てるし。

 辺りをキョロキョロすると、既に駅からけっこう離れていて、同じ高崎高校の制服を着た人達も増えている。

 あれ? なんか私たちを見てびっくりしてる男女や、ショックを受けたような顔をしている男子がちらほらいるけど……。さっきの話、聞かれてたのかな?

「ち、ちぃちゃん。さっきの私、どんな顔してたの?」

 自分が恥ずかしくなるのがわかっていながら、私はちぃちゃんにさっきの自分のことをちぃちゃんに聞いた。聞かずにはいられなかった。

「虚ろな顔して、頬をめっちゃ赤くして指で自分の唇を触ってたよ」

「~~~~~~~っ!?」

 ちぃちゃんの言葉を聞いて、顔が沸騰しそうなくらい熱くなった。人がいっぱいいる所で何やってるの私!?

 うぅ~、恥ずかしい。穴があったら入りたいよぉ。今日学校じゃなかったら今すぐ家に帰って部屋で突っ伏したい。

「あはは、そんなに真人とのキスが良かったんだねぇ」

「ち、ちぃちゃん!それ以上言わないでぇ!!」

 私はさらに恥ずかしくなり、ちぃちゃんの腕をポカポカ叩いたんだけど、ちぃちゃんは全く意に介さずに、からからと笑っていた。

 その後、授業中は他のことを考えないようにして、なんとか授業を乗り切ることが出来た。

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