第3章 無双な二人と永遠の誓い

第94話 ある男の影

 俺は綾奈と美奈の三人で帰宅後、それから少しして綾奈を家まで送った。

 あの時綾奈が俺の考えてる事に乗ってくれたおかげで美奈の最高の笑顔を見ることが出来た。

 あのやり取りで俺たち三人の絆がまた強くなったように感じた。

 綾奈と他愛のない会話をしていると、あっという間に綾奈の家に到着した。

 今日は放課後からあれだけ綾奈と一緒にいて、くっついていたのに、いざここでお別れと思うとやっぱり寂しくなってしまう。

 名残惜しいけど、俺は綾奈の手を離した。

「あ……」

 綾奈が弱々しく声を出したかと思えば、俺の服の袖を人差し指と親指で軽く摘んできた。

 綾奈を見ると、目を潤ませて、上目遣いで俺を見ている。この表情をされると弱い。

 俺は綾奈を抱きしめ、頭を撫でた。

 どれだけ抱きしめても抱きしめ足りない、もっともっと綾奈に触れていたい。

 早く家に帰さないといけないのに、自分の欲望がその考えを押し潰そうとしている。

 ダメだ。その考えを律しなければ。

「綾奈、ご両親が心配するからそろそろ」

「……うん」

 残念そうな声を出し、ゆっくり俺の背中に回していた手を離して、一歩後ろへ下がる綾奈。

「真人君」

「なに?」

「最後に……キスして」

「いいよ」

 俺は一歩、綾奈へ歩み寄り、彼女の頬に触れる。

 綾奈は顔を赤くして微笑み、そして目を閉じた。

 俺は顔を綾奈に近づけ、彼女の唇に俺の唇を重ねる。

「んぅ……」

 綾奈から可愛くも色っぽい声が漏れる。

 十秒ほどして、唇を離す。綾奈はとろんとした表情を浮かべていた。

 俺はまた綾奈の頭を優しく撫でて、踵を返す体勢に入る。

「じゃあ、また明日ね」

「……うん。また明日」

 そうしてお互い手を振り、俺は西蓮寺家を後にした。


 家に帰り、夕食を食べ、風呂から上がり自室に入ると、そこには俺の妹の美奈が俺のベッドに座って漫画を読んでいた。

「お兄ちゃんおかえり~」

 美奈は目線は漫画に向いたまま、俺に言ってきた。

「おう」

 俺が美奈の隣に腰掛けると、美奈はちょうど漫画を読み終わったタイミングらしく、漫画をパタンと閉じた。

「この続きってないの?」

「あ~確か最近出てまだ買ってないな」

「そっか。今日本屋行った時に新刊コーナー見とくんだった」

 美奈が見ていたのは少年誌で連載されているラブコメ漫画だ。

 主人公とヒロインの焦れったくも甘々な展開が繰り広げられるラブコメで、俺も気に入っている作品だ。

「今度本屋行った時に見てみるよ」

「ありがとう、お兄ちゃん」

 そう言って美奈は満面の笑みを見せた。

 俺は自然と手が動いて美奈の頭を撫でた。

「えへへ~」

 美奈は嬉しいのか、ふにゃふにゃした笑みを浮かべた。

 一年前には想像も出来なかった笑顔だ。

 俺は一年前は体重が九十キロもあり、勉強もせずに一日中ゴロゴロして過ごしており、美奈からは今とは正反対な態度で接されていた。

 しかし、俺が綾奈とお近づきになる為にダイエットを始め、生活態度を改めたのをきっかけに、徐々に今のような態度で接してくれるようになった。

 そして今日美奈から言われた「大好き」は本当に嬉しかった。シスコンと言われても仕方ないくらいだ。

「そういえば……」

 美奈は何か思い出したようで、その内容を俺に教えた。

「今日本屋で中村先輩を見たよ」

「中村……」

 その名前を聞いて俺は微妙な顔をした。

 中村こと中村圭介は、中学までの同級生で、中三だった去年は生徒会長をつとめていた奴だ。

 副会長だった綾奈と一緒にいるのをよく目撃されていて、二人は付き合っているのではないか、なんて噂が四方八方から飛び交っていたほどだ。

 実際はそんな事はなくただの噂だったけど、それを聞いて俺は心底ほっとしていた。

 中村は長身でイケメン、バスケ部のエースだったのでそれはまぁもの凄くモテていた。

 だが一方で女癖が悪く、付き合った女子を飽きたら捨てているだの、複数の女子と同時に付き合っていただの等、その手の噂もあった。

 そして男子と女子で態度が変わる奴で、俺を含めた男子のほとんどは中村の事があまり好きではなかった。

 そんな奴が生徒会長になれたのは女子の絶大なる支持と、中村とまるで接点はなく、噂を知らない一部の男子によるものだ。

「? お兄ちゃん、中村先輩のこと苦手?」

 当然美奈も中村の本性を知らないので、俺が嫌な態度をとったことを不思議に思っているようだ。

「まぁな」

「そっか、中村先輩とお義姉ちゃんって付き合ってる噂めっちゃあったから嫉妬してるんだ~」

 美奈は面白半分で、俺の腕を指でつんつんしながら言ってきている。

「まぁ、それもあるんだが……」

 俺は中村のことを美奈に打ち明けた。

「マジ!?あの先輩ってそんなだったの!?」

 やはりというか、大層驚いていた。

「まぁ、女子はほとんど知らないことだからな。というか、この話をすぐ信じれるのか?」

「え?当たり前じゃん。お兄ちゃんが言うことなんだもん」

 美奈があっさり信じたものだから、その理由を聞いたら、何ともむず痒い理由だった。

「お兄ちゃんがそんな嘘つくわけないもん。じゃあ、一緒にいた女の人も先輩の本性知らないってことだよね?」

「女の人と一緒にいたのか?」

「うん。美人でテンション高めのギャルっぽい人。正直あまり好きではないかな」

 美奈は中村の連れの女子をバッサリとぶった斬った。

「同じギャルでも千佳さんの方が何万倍もいいね」

「そりゃそうだろ」

 千佳さんと今日初めて会ったみたいだけど、この様子からして既に千佳さんに懐いたようだ。

「ところで、進路って決めたのか?」

 これ以上中村の話はしたくなかったので、話題を変えた。

 美奈は現在中学二年生。来年は受験だ。

 もうそろそろ進学する高校を決めないといけないのだが、美奈はどの高校に行くんだろう。

「うん。私、高崎に行きたい」

 高崎高校か。綾奈と千佳さんが通う文武両道でレベルが高い高校だ。

 正直今の美奈の成績ではちょっと厳しいだろうけど、まだ一年以上もあるからまだ慌てるような時間じゃない。

「じゃあ、今のうちにしっかり勉強しないとな」

「うん」

 それからしばらく会話をして美奈が眠くなったので部屋に戻っていった。

「……中村、高校に進学しても、やはりこの近くにいるんだな」

 俺は再び中村のことを考えていた。

 中村の進学先は俺は知らない。

 風見高校や高崎高校とは別の高校に進学したのだけしか知らないから、中学卒業以降、奴が今どこで何をしているのかは、美奈の話を聞くまで全くわからなかった。

 あいつがもしまた綾奈と接触してきたらと思うと、色々と嫌な考えがよぎる。

 その時は、絶対に俺が守らないとな。

 そう決意をして俺も眠りについた。

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